Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.25_01
Union class Dropship , Bridge
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
12 January 3152
『1番格納庫で反乱発生。』
「ようやくかよ。」
艦内放送を耳にして、オスキャルはへっ、と笑う。
「勧誘から3日か?早からず、遅からず、と言ったとこか?」
「その言葉ですと、ちょうど良いように聞こえます。」
隔壁閉鎖の指示を出し終えたナランが渋面の艦長に言葉を返す。
「拙速でもねぇし、辛抱強くもねぇ。若造が焦っただけじゃねぇか。面白くもねぇ。」
しかも、艦内のほとんどの人間が起きているタイミングでの蜂起。
真面目にこの時間で計画していたのだとしたら、彼女の作戦立案の能力はクズ以下だ。久しぶりの若い戦士に期待をしていた身としては険しい顔をせざるを得ない。
「目標はメックの起動に失敗して逃走中。2名のうち片方は3番格納庫へ、もう片方はエレベーターに乗りました。」
箱の行き先をこの階に変更しろ。とオスキャルは指示を出す。医療区画に降りられると厄介だった。せっかく相手の戦力の分断には成功したのに、うっかり人質を取られるのは良くない。
続けて、3番格納庫側を追い込むための指示を出す。
「ドッギングしている航宙船はまだチャージ中だ。3番格納庫の方はそっちに行かねぇように注意しろ。」
オスキャルは腕に付けている通信機から航宙船を呼び出し、接続の解放を要請する。
わざわざ、艦内で反乱が起きているとは伝えなかった。
「機関始動。準備ができ次第、航宙船から離れろ。」
艦内に重力が発生すれば、お互いに自由を失うが少なくとも、相手の移動の自由を阻害できた。
「現時点では双方に死傷者は出ておりません。」
ナランがわざわざ律儀に分かりきった報告をする。彼ならば、艦内でそんなものが出ていればいの一番に報告するはずだ。
「反乱者はヌルさんとエノリさんですか、ここに向かってるのはヌルさんのようですねぇ。」
通信席に座るアレフの声もつまらなそうに聞こえる。混乱が生まれなければそこから得られる情報は少ない。たった2名で起こしたの反乱など、何も得られないのだろう。
赤い背景に浮かんだ船内図をジッと観察して、白い点の現在位置を確認した。
エレベーターは無事に医療区画のある階を通り過ぎて、真っ直ぐに最上階へと向かっている。カゴの質量計はヌルがまだそこにいることを示している。
艦底からドッギングアームが外れ、船体がゆっくりと回転を始めた。
指示は出さなくとも、やがて全身が緩やかに床に押し付けられる感覚を覚え始める。
これで、ヌル達は経路の自由を失った。
彼らは順調に選択肢を失っている。
「艦長、バトルアーマー隊が下の階層でエアロックに閉じ込められました。彼らが艦橋に到達するのは不可能です。」
珍しくナランが早口で報告を寄越した。
「減圧も加圧もさせるな。上に上がって来れないのは仕方ない。ペトロワ達を向かわせて中からこじ開けろ。」
すぐに現場に整備班を向かわせる。
『エアロックの制御は取り戻したけど、扉の開閉装置は壊されてるわ。』
圧力では死なないけど、早くしないと狭いから酸欠になるわよ。と通信機越しのアリマの声がオスキャルを脅迫した。
――なんで、俺は対処した後に急かされてんだ?
首を傾げるオスキャルにナランが次の報告を寄越す。
「3番格納庫に反乱者が進入。進入口の隔壁を閉鎖します。」
ナランが手元のパネルを操作するとほとんど同時に警告音が鳴る。
「隔壁の電源装置を過電流でやられました。どうやら艦内のネットワークにオーバーライドしているのは3番格納庫の方のようですね。」
どうにか、がらんどうの格納庫にエノリを捕らえたナランは肩を降ろした。
「格納庫の映像をモニターに出します。」
彼がそう言うと、頭上のモニターに金髪の髪の毛を頭の上に小さくまとめ上げた女性が映し出される。
パイロットスーツを着た彼女はその右手に大型の剣のような武器が握られている。
「高周波の長剣じゃねぇか、とんでもねぇものを持ち込んでんな。」
目を細めてその刀身を観察したオスキャルは呆れた声を出す。
個人で持つには、相当の破壊力を持っているが、それでも隔壁を切り裂かれる心配はない。
どうやら思っていたよりは難儀しそうな相手だと、老艦長はナランと目を合わせた。
突然、ガランと音を立てて目の前の大男の背に四角い金属の塊が勢いよく当たる。
艦長席の頭の上にある換気システムの吸気口の蓋だ。
「艦長も他の人も動かないでください。」
強い意志を感じさせる声が艦橋に響く。
どこから入ってきたのか、いつの間にか黒髪を頭の上で結んだマイが艦長席の後ろに立っていた。
「あの狭い空調の管を抜けてくるのかよ。」
大したもんだ。とオスキャルは彼女の身体能力に感心をする。
不意を打たれて背を取られた状況では、さすがの老艦長も両手を上げるしかなかった。
『オスキャル、すまん。良くないことになった。』
そんな状況でも通信機越しに報告が上がってくる。
大抵、こういう時のオーケは本当に良い報告を寄越さない。
返事も聞かずに通信機は言葉を続ける。
『3番格納庫にサチコが置き去りになってるらしい。一度退避したはずなんだが、忘れ物を取りに休憩室に戻ったらしいんだ。』
その内容を聞いた瞬間、アレフとナランが驚きの表情を隠しもせずに、艦長席を振り返った。