Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bridge
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
12 January 3152
ナランにはマイとヌルの関係は彼とゾリグのようなものに思えた。支える側と突き進む側の2人の人間が組み合わさっている。
しかし、それではどうにも説明の付かない部分があった。
それは彼女達の感情部分に関わることで、ナランにはそれが理解できない。
要するにナランには目の前の嘆願について、オスキャルへ何も助言できることがなかった。
「どうか、2人には寛大なる処置をお願い致します。この身は如何なることになっても構いません。」
全身を腫れ上がらせたヌルを足元に転がして、マイが艦長席に向けて助命を願い出る。
だが、オスキャルはそんな彼女の言葉を遮った。
「お前さんをどうこうする権限は俺にはねぇよ。」
マイがただ単にこの反乱に乗らなかったと言うのであれば、オスキャルの采配の範疇にある。
だが、彼女の立場はヌルの翻意を潰すために配置されたドルジの尖兵だ。彼と肉体関係まであるとなれば、なおのこと手出しのしようがない。
彼らの会話を邪魔するかのように、通信機の呼び出し音が鳴る。
ナランは一度手元でその要件を確認すると通信のチャネルを艦橋に設定しなおした。
「1番格納庫から、報告です。」
ナランの言葉が終わらないうちに通信機の向こうで、オーケが喋り始める。
『艦長、行方知れずだった4人目は発見した。これで全員だ。』
便宜上、反乱者はマイも含めてカウントされている。しかし、エレナまで含めることについてはナランは首を傾げざるを得ない。
『それがよ、聞いてよ。こいつ、TimberWolfのコクピットの座席のアームレストに股を擦り付けて嬌ってたんだよ。ホントにこの子あいつらの一味なの?』
えええぇ?とオスキャルだけでなく、アレフまでが困惑の声を漏らす。
『ドルジ様、ドルジ様ってうるさいし。あいつ、死んだんじゃなかったっけ?おい、誰かそいつを取り押さえろ、なんで、突然脱ぎ始めるんだよ!』
通信機の向こう側が途端に騒がしくなる。
エレナはヌル達の荷物のような扱いだ。ヌルが乗っ取ろうとしたCrossbowに載せられていたはずだったが、姿を消していた。
彼女はよりにもよってアンネの聖域への出入りが許されている。無防備な妊婦達の居場所でもあるが、そこは今やドルジの居室でもあった。彼女が悪意を抱けば艦内の秩序は崩れうる。まさか、隣の機体に移動して一人操縦席で乱れているとは誰も考えず、発見が遅れた。
もはや、彼の生存を内部に隠し通すのは無理がある。彼自身がまるで隠れることをせずにそこから出てきては前線へ向かうのだから、外からも内からも彼の生存は明らかだった。
『あと、エノリ嬢は止血が間に合って一命を取り留めたそうだ。どこか個室を割り当ててくれってシタ先生からのご要望だ。』
騒ぎが治ると、オーケが報告に戻ってくる。
そして言いたいことを終えた彼は艦長の返信を待たずに通信を切ってしまう。
「アレフ君、サチコを狙うオプションは考え直すべきだと思うんだがなぁ。」
突然、オスキャルが通信席に話しかけた。
だが、困り顔のアレフはそれに返事はせずに、もうなんなのこの船。と漏らしている。
その反応に満足したのか、オスキャルがようやくマイに向き直る。
「そんなわけで、4人とも全員生存ってわけだ。ヌルはしばらくは独房入りにする。それで良いか?」
「ありがとうございます。」
元恋人の命が助かったことにマイの冷たい表情が、一気に和らぎ華やぐ。
船上の混乱は船員全員の死に直結する重罪。船員が反乱を起こせば、首謀者は死罪が古来からの慣習だ。オスキャルの裁定は本来ならばあり得ない。
「しかし、この船はみんなお盛んだねぇ。」
オスキャルがそうボヤきながら、席を立つ。
ナラン、艦橋をしばらく任せる。という彼の声に応と声を返す。
オスキャルは人のことをどうこう言える立場ではない。
彼には、齢が半世紀も離れた細君がいる。
そういう意味では彼自身が一番「お盛ん」な男とも言えた。