Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bay1
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
12 January 3152
暴れ回る金髪女を縛りつけ、マットでぐるぐる巻きにして宙に吊るす。
船が再び重力を失えば、この拘束は効力を少し損なってしまうが、その頃には彼女も別の場所に移送されているだろう。
狂気に犯された人間というのは、往々にして身体の健康も失っていく。だが、目の前の彼女はその法則の内には含まれていないようだった。
彼女の股下が水の噴き出す音を聴きながら、パッドに付いているカメラのレンズをそちらに向ける。
――マットは余計だったなぁ...。
なかなか出くわす機会のない、本物の痴女の記録は分厚い覆いのせいで彼女の魅力を1ミクロンも伝えられない内容になった。
せめて垂れ落ちる水の水源がどこかわかるような絵になれば、何かの賞を狙えたかもしれない。
「シャロンに言いつけますわよ。」
邪な妄想に更に邪な考えを重ねていたオーケの尻の肉に鋭い痛みが走る。
「痛ぁ!サチコさん、宝刀で人を刺しちゃイケマセンってどこかで習いませんでしたか?」
「習いません。刀は本来、邪な存在を斬るためにあると伝わっていますが、私は所詮門下生ですので、秘伝は教わっておりません。」
突きの構えを解くサチコに、オーケは両膝を付いて、平伏しながら抗議をする。
まるで汚いものでも目にしたかのような視線にオーケは縮み上がった。
――はい、白状します。一枚だけ、操縦席のエレナさんの姿を激写致しました。
心の中でだけ、懺悔をする。口にしようものなら、抜き身の刀で真っ二つにされかねなかった。
彼女の機嫌が宜しくない理由はただ一つ。
あんな修羅場を一人で凌いだにも関わらず、彼女の想い人が彼女の元に一向に来ないのだ。
――艦長ぉ、早く来てぇ!
一刻も早く、この修羅と化した才女を正気に戻して欲しい。
心の中で祈りを続けていると、願いが天に届く。
「サチコぉ!無事か?」
「こちらにいらっしゃるまで、随分とかかりましたね。もう、来られないものかと。」
若い女武者が老いた主人に棘のある言葉を放つ。口にした言葉は厳しいが、手にした凶器の刃を取り出した布で拭って鞘に納める。いつもなら、その言葉に気圧されるオスキャルだったが今日はサチコに歩み寄る速度が変わらない。
伴侶の異変を察知したサチコはわずかに身構える。だが、老艦長はそんな彼女をそのまま両手で抱き上げる。
「サチコ、俺ぁ決めたぞ。」
驚きの表情を見せる彼女にオスキャルは宣言をする。
「お前が二度とこんな危ないことをしないで済むように、俺はお前と祝言を挙げる。今日からお前の居場所は俺の隣だ。」
そう叫ぶと彼はそのままサチコを抱きしめて、彼女の口を塞ぐ。
オーケも他の整備士達も目の前での出来事に唖然としている。
僅かに抵抗をしていたサチコの身体がやがて強張り、足の先がスッと下に伸びたのを皆が見た。するっと力が抜けて、その身の全てを夫に委ねる小さな身体を、オーケは平伏したまま見上げている。
反乱とか、些事になるほどの一大事が起ころうとしていた。
すっかり、脱力した若妻から口を離すと彼女を脇に抱え直してオスキャルが、オーケを見下ろす。
彼は再び口を開くと、いつもとはまるで違う口調で、再び宣言が行われる。
「我、ゴーストベアー氏族のオスキャル・スヌーカは降下船レッドグリズリーの長である。
我はここにゼルブリゲンの儀式を宣言し、OKメンテナンスの長たるオーケ・ノーマンに決闘を申し込む。
この厳粛な儀式を何人も邪魔すること能わず。」
先の熱い抱擁を見て、ザワついていたはずの周囲は今やしんと静まり返っていた。誰も何も言葉を漏らさない。
艦長の言葉の意味がわからないでいる人間もいる。
だが、オーケには彼の言葉の意味も文化的な背景も理解していた。