Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.26_01
Union class Dropship , Bay3
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
12 January 3152
『つい数時間前まで、ここで凄惨な刃傷沙汰があった。
海賊船で捕えられた捕虜が暴れ出し、この格納庫で、小さき妖精のような少女を振動する機械仕掛けの剣を持って襲い掛かる。
なんやかんやあって、襲われた少女は助かり、捕虜は再び囚われた。
だが、今度はこの船の船長と整備班長が少女の身柄を奪い合う。
剣の花嫁を手にするのは熊殺しのオスキャルか、金剛掌のオーケか。見届け人はご存知、ヤシュムタルの巫女 ミズアンネ!』
――おい、そうだったか?
艦内放送の内容を聞いたシャロンは、心の中でツッコミを入れる。
サチコの蛮行を露骨に隠蔽した煽り文句を考え出した奴は、この船の機関士誰かに違いない。
口上を述べる役を担ったのは、機関士のペトロフ。
その名が示す通り、彼はペトロワことターニャの父親だ。
この船の機関士の雇用主はオーケでなく、オスキャルであることが多い。中にはオスキャルが氏族の艦隊にいた頃からの忠臣だっている。彼らはレッドグリズリーで10年近く働き、自分たちの息子や娘までをこの船に載せていた。
設立から10数年の傭兵団、OKメンテナンスとは訳が違う。
熊の氏族の家族が新たな若妻を家族に加えようと言うのだ。彼らの士気は数時間前よりも余程高まっている。
「うちの社員、なんで誰もこっちにいねーんだよ。」
オーケがボヤく気持ちはわかるが、その言い方は気に入らない。
手の平を上に向けて、彼の股下に伸ばして丸い2つの球を一気に握る。潰さないように、でも力を入れて丹念にその2つを擦り合わせた。
刺激は即座に彼の全身を駆け抜けて、彼の生命力が悲鳴を上げるように一気に隆起する。
シャロンは、それが彼女しか知りえない大きさにまで成長したのを、指先で確かめてから口を開いた。
「あたしだけじゃ不満かよ。」
お前だけでも居てくれて嬉しいとか、お前だけが俺の天使とか、シャロン戻ったら一発やらせろ、とか言うことあるだろう?と思う。
この社長にゾリグのようなセリフ回しや、オスキャルのような粋さは求められない。
それがわかっていても、シャロンが欲しいのは奇声ではなくて、恋人への感謝とか信頼の言葉だった。
「シャロンさん、なぜ、オーケを...」
覚えのある声が聞こえて振り向くと、そこには興味深そうな目をさせて、サチコが立っていた。
「良い手でしょ、男が一気に最大出力になるわよ。」
胸を張ったシャロンが、手の平とひらつかせた指を見せる。だが、サチコの視線はオーケの下半身の隆起した一点に注がれていて友人の手の動きなど見てはいない。
「何しに来たのよ。サチコは一応あっちの姫君役でしょ?」
「シャロンさんではセコンドの役に立たないと思ったので。」
一応、彼女の立場の心配をしたつもりだったのに、なぜか少し辛辣な返事が返ってくる。
やはり、決闘でのパワーアームの使用を認めさせたのがやり過ぎだったのか。
「社長、艦長のリボルバーの口径は.450もしくは.460です。あの人はそれを片手でどちらの手でも扱います。」
心配をよそにサチコはオーケの顔を覗き込みながら、彼女の役割を忠実に果たし始める。
「決闘ではオスクは素手ですが、そもそも生身での握力や腕力は社長と比較になりません。ですが、パワーアームがあれば、その差はこちらが1000倍は有利です。
船長の頭や胴への攻撃を防いで、一発でもオスクに当てられれば、正直どうとでもなります。」
勝負の賭けの人気は、艦長が圧倒的だ。
だが、それはパワーアームの性能を整備士達も機関士達も正確に知らないからに他ならない。
隔壁を破壊するような握力のある装置を身につければ、少なくとも精神的な優位はこちらにある。
古い鉄刀一本で高性能な機械剣を持った遺伝子戦士を打ち破った彼女にそう言われても少し説得力に欠けるところはあった。
だが、シャロンは決闘でパワーアームの使用を認めてもらう際にもアームの諸元は口にしていない。
それは卑怯なことだったかもしれないが、彼女なりにオーケを守るためのものだった。
「3年前に社長に拾っていただいたご恩は忘れていません。ですので、どうか私の行く末のことは気にせずに戦ってください。」
サチコはそれだけを言うと、少し寂しそうな顔をして元の場所へと戻っていく。
「あいつも大変なんだな。」
彼女の背を眺めながら、オーケがようやく本音を漏らす。
サチコの理想で言えば、彼女の結婚は整備士達からも機関士達からも等しく祝福されて厳かに行われるはずだったのだ。
それが賭けまで行われる闘技のネタにされてしまう。
恩人と恋人のどちらに肩入れしても、サチコの信義で言えば、それは不忠に当たるのだ。
オーケにそんな説明をされた途端に、シャロンはサチコの険しい表情が苦悶の表情だったのだということに気がつく。
「どっちが勝っても、サチコは傷つく?」
シャロンの呟きに、オーケは深く頷いた。
「勝ち負けも含めて、俺たちはサチコが幸せにならなきゃ勝ちじゃねぇんだよ。」
彼はそう言うと再び唸り声をあげて黙ってしまう。
暗い表情をしていても、彼がいつも通りのオーケであることに安心する。
シャロンは彼の頬にチュッと口づけをした。
そうとわかれば、この後にやることはただ一つ。
「ふふん、こんなこともあろうかと」
一つ策を打ったのよ。とシャロンはポーズを決める。
その時、円陣の向こうから老艦長の悲鳴が響いた。
――ふっ、サチコの睾丸潰しはヤバいわよ。
シャロンの手技は適度の力を抜いている。しかし、サチコはその手順を知らない。
それに加えて、彼女の握力はシャロン以上だ。
「グシャァ。」
ニヤニヤを隠せずに、そう口にする彼女をオーケはゾッとした顔で見上げる。
そんな彼にシャロンはウィンクと共にキスを投げて見せた。
「とりあえずこれで時間稼ぎはできたでしょ?」
本当は引き延ばしの意図でやったのではなかったけれど、結果オーライ。
わずかでも良い、あたし達に必要なのはほんの少しの時間だった。