※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.26_02

Union class Dropship , Bay3

BlueHole System, Nadir JumpPoint

Jade Falcon

12 January 3152

 

 時間稼ぎなど必要だったのか、と思うほどに彼女達がそこに降り立っただけで庫内が沸き上がる。

 草の紐のアンネと女医のシタが2人同時にこの階層に現れた。

 しかも、アンネに至っては彼女の生まれたばかりの2人の子を抱いたままやって来ている。

 整備士も機関士も彼女達に世話になっていない人はいない。シタはすぐにオスキャルの元へ連れて行かれたが、アンネの周囲が落ち着くのにはしばらくの時間が必要になりそうだった。

「お前らはいつもこんなことを?」

「こんなこととか言うなし。」

 首を捻るゾリグにトヤーは抗議の言葉を返す。

 問題をシャロンから聞いた時は既に詰みだ、とゾリグは思った。

 到底、解決のしようの無い問題にしか聞こえない。オーケが勝っても、オスキャルが勝っても、サチコの問題は解決しないのだ。

 だが、トヤーはそんな視点では場を見ない。

「要するに、みんなが幸せになって一つになれたら良いんだよね?」

 彼女はそう言うと、その手段と手順を僅かに数分で考え出した。

 それを聞いたマイが頭を抱えている。

「氏族の神聖な決闘がそんなことに...いやしかし、確かに何も問題は無いのか...」

 オチルとペトロワは顔を見合わせて、シャロンは大笑いしながらトヤーを賞賛した。

「さすがトヤーだな、これはやる気が出てきたぜ。」

「じゃあ、シャロンとオチルは待機しててね。」

 トヤーに手筈を伝えられると彼らは頷きを返す。

 この場には当事者のオーケもサチコもいない。

 だがもはや、彼らの事は大戦略の内の一つのピースに過ぎなかった。

 

『さぁて、ミズアンネが席に着いた。それでは始めよう。』

 格納庫の中央に描かれていた半径15ft程度の円をリングに見立てた純然たる殴り合いで決闘は行われる。

 戦士ではなく整備士であるために、オーケにはパワーアームの使用が認められていたが、彼はいつもの黄色いツナギだけの姿で円陣の中に入った。

 ズボンだけを履いて、上は何も着用していないオスキャルも同じ輪の中に入る。

「金玉握られたばっかりの爺に強化腕は過剰だと思ってよ。」

 お互いが向き合ったところで、オーケはオスキャルを挑発し始める。

 老艦長はその言葉に笑みを返す。

「ヘッ、シタ先生にシゴき直してもらったからビンッビンよ。」

 実際はどうであれ、彼の言葉のキレと女医弄りはいつも通りだ。

 ゾリグがシタの方に目を向けると、彼女はサチコからまさに何かの猛抗議を受けている。

 女医の唇の動きを読めば「睾丸と前立腺のマッサージ」という単語を読み取れた。

 

――もう、これ以上の観察は止めよう。

 

 シタは誠実な医者だから、治療の内容をちゃんと説明しようとするだろう。

 だが、不幸なことにそれは単純にサチコの嫉妬心を煽るだけの効果しかない。

 決してサチコは悪いわけではなく、むしろ悪いのは彼女のパートナーの方だ。

 なぜ、運命は彼女に無用な試練を与えるのか。

 ゾリグはそれが不思議で仕方がない。

 

 目の向きを戻せば、オーケとオスキャルの殴り合いは既に始まっていた。

 以外にもオーケは腕を振り回すだけでなく、ジャブやフックを使いこなしている。

 オスキャルの拳を腕で防ぐ技術まで持っていた。

 しかし、蹴りや当て身から身を護る術は知らないらしく、劣勢であることに違いはない。

 オスキャルの一撃は重く、拳が肉を打つ音を聞くだけで、オーケの身体へのダメージが蓄積していることがわかった。

 

 衰えを感じさせないオスキャルの攻めに戦士でもないオーケはよく生身で耐えている。

 ゾリグは心の中で彼を見直した。

 この場にはオーケの勝利を信じた整備士も機関士もいない。

 だが、闘技場の回りからはいつの間にかオーケへの声援が増え始める。

 

――思ったよりも抵抗しているからな。

 

 賭けの内容は、突如できた空白時間のうちに「どっちが勝つか」ではなく「オーケは何分立っていられるか?」に変わっていた。

 整備士のオーケは1分しないうちにノックアウトされる。というのが、大半の予想だった。

 既にオーケは3分以上も、オスキャルの猛攻を凌いでいる。

 とんだ番狂せだった。

 

「あの小娘は何を企んでるんだ?」

 拳を打ちつけるオスキャルの口がそう動いたのをゾリグは見た。決闘の最中、老艦長はずっと何かを警戒している。

 オーケの動きだけでなく、その目の光は円陣の外の動きにまで及んでいた。

 彼はトヤーの動きにも気がついている。

 一方で何も伝えられていないオーケは知らねぇよ。とそれに答えてしまう。

 そうか、と言うとオスキャルは攻めを強める。

『いいぞ、しっかり攻めろ。』

 庫内の放送までが応援に加わったせいで、オーケへの声援が却って強まった。

 

 注目と熱狂の集まった円陣の上で異変が起きる。

 オーケの脚が金属の床の上を弧を描くように滑った。

 それに足を取られたオスキャルが体勢を崩して、床に倒れ込む。

「殴る一辺倒だと思うてか、ジジイ!」

 そう叫んだオーケが、更に踵の一撃で追い打ちをかける。

 床に座り込んでいた周囲の観衆が何人も立ち上がり、ゾリグ視界から二人の姿が消えてしまう。

 だが、視界の方角から興った大きな打撃音だけは、確かに耳にした。

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