※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.26_03

Union class Dropship

Dover System, Kalkedony city Rutile

Draconis Combine

4 May 3148

 

「だからね、乗ってた傭兵がどこ行ったかなんて、たかが船頭に聞かれたってわかんねぇのよ。」

 名簿も積み荷のリストも提示して、過去の履歴まで見せても、目の前の役人は引き下がらなかった。

 この船は退役した老人が道楽で運行している輸送船、本心で言うと利益など知ったことではない。

 だが、この役人はどうにも船倉を空にした船が次の星系に向かおうとするのが、信じられないようだ。

 どこかから、積み荷がやってくるのではないか、積み荷を隠しているのではないかと探りを入れてくる。

 立ち入らせて、隅々まで案内しても、この船は正真正銘の空だった。

「そんなことより兄ちゃん、燃料補給の代金の取り立て忘れてるよ。」

 役人の覗き込んでいるタブを横から覗き込みながら、オスキャルはそう彼の耳にささやく。

 燃料補給完了の通知が、画面の右上で光っている。

「見るな、指もさすな。ええぃ、王国貨幣で9枚だ、早う払え。」

 虫でも払うかのように、目の前に差し出されたオスキャルの手と指を片手で除けると、面倒くさそうに金額を口にした。

 老人がじゃらじゃらと手に広げた貨幣を目にすると更に顔を顰める。

「一枚、二枚、三枚...」

 物理貨幣とかいつの時代だよ。と役人は嘆くが、超光速通信が絶える前、世界と世界の間が広がる前から存在する確かな支払い方法だ。

 文句を言われるような話ではない。

 役人の目にも見えるように、オスキャルは一枚一枚と貨幣の枚数を数えて見せる。

「六枚七枚...、ところで今何時だい?」

 もう間もなく数え終わるというときに、老艦長は顔を上げて尋ねた。

 一瞬、ムッとしたような表情をした役人は、すぐにハッとしたような顔をさせて時間を確かめる。

「い、今2の刻だな、間違いない。」

 すぐに、彼は上ずった声を出しながら今の時間を口にした。

 役人とは言え、彼は宇宙港の管理を行う側の人間。それなりの教養を持っている。

 定められた儀礼が通用するのはありがたい話だ。

「ほぉほぉ、そうだったな。え~と、3枚、4枚...。」

 白々しく数字を重ねるオスキャルは9枚までを数えると、役人にクリタの王国貨を手渡す。

 役人はそれを数え直しもせずに受け取ると、素早く残りの手続きを終える。

「ふん、せいぜい安全な航海をするんだな。」

 謎の捨て台詞を残すと、役人はその場から駆け出すようにして立ち去った。

 

 彼が視界から消えるのを待って、オスキャルは腕に付けた通信機のチャネルを開く。

「ガルムは死者を見失った。お客さんたちは今どこにいる?」

 船のベントラルステアを登りながら、問いかけた。

『メック中隊は全滅です。金色の林檎は予定通り小型車でこちらに向けて逃走中。到着予定時刻は予定通り。』

 艦橋の通信機に付きっきりになっているクルーが短く応える。

 彼は本来は機関士だが、要員の少ないこの船では他の仕事も兼任していた。

 通信機のカウントダウンを確認すれば、その予定の時間とやらはあと30分もなかった。

「管制塔に連絡して、打ち上げの最終承認を貰え。ペトロフ、機関始動。いつでも飛べるようにしておけ。オーケ、火器管制をオンラインに。砲座に何人かクルーを寄こせ。2番以外の格納庫を閉鎖しろ。」

 立て続けに各部署に指示を出す。

 自身は2番格納庫の開閉式の扉に三脚を設置する。

『管制塔からの打ち上げの承認下りました。』

『機関始動。要員の内1名を2番格納庫に送る。』

『2番以外の装甲扉を閉鎖中、各部気密チェック。』

 本体を三脚に固定して、ベルト状に繋がった銃弾を差し入れた。

 束になった銃身の回転を確かめれば、口元のニヤつきが止まらなくなる。

『艦長、予定外の来客が接近中。追跡してきたメック3が港内に侵入しました。』

「オーケ、照準を目視に切り替えろ。各砲座、第一射は砲座の右にある射表を参照しろ。ECM全開。」

 通信席の声に応えて、オスキャルは指示を重ねる。

 同時に視界に入った車列に、手元の銃口を向けた。

 トリガーを引くと、巨大な爆音が立て続けに起こる。

 先頭を走る車の脇を抜けた射線が、後続の車両を薙ぐ。

「撃ち方、始め。」

 オスキャルが指示を出すと、船体の上方に設置された粒子加速砲から火を噴き始めた。

 2本の光条は真っすぐに宙を突き進むと、港の耐熱壁の影から現れた巨大な甲冑のような人型を撃ち貫く。

 倒れ込んだ先頭のメックに更に大量の誘導弾が撃ち込まれる。

 地上の車列から現れた黒い影は、オスキャルの銃座と、船体の砲座からの十字砲火を受けて次々と赤い霧に変わっていく。

 逃走していた方の車両はなぜか、格納庫の扉の前で停車するとピクリとも動かなくなった。

 

――何していやがる。

 

 予定とは違う行動に舌打ちをしながら、銃座を離れて車体に向かう。

「ウジマサ、死んではなりません。」 

 車の中を覗き込むと一人の少女が助手席に座る血に塗れた男を揺り起こそうとしている。

 思っていた状況と違った光景に首を傾げた。

 救助対象というものは、普通は助手席か後部座席に座っているものではないのか?

 オスキャルは腰の銃を引き抜くと、中にいる少女を傷つけないように、車の扉のロックを撃ち抜く。

 邪魔な鋼板を除けて、車の運転席で身構えている荷物を片手で引きずり出すと抱えて船に駆け戻る。

 腕の中で何か悲鳴なのか叫びなのかが聞こえたが、それは一切気にしない。

「2番格納庫を閉鎖しろ。ここからオサラバするぞ!」

 格納庫に飛び込むと同時に通信機に怒鳴りつける。

 庫内の座席に少女をほとんど縛り付けるようにして固定して、装甲扉を振り返った。

「2番気密良し。推力全開、宇宙に帰るぞ。」

 庫内の空いている座席に適当に座り、オスキャルは自身の身体を固定する。

 離床の衝撃を背に感じながら、荷物の様子を伺う。

 猛獣のように暴れていた少女は、手に抱えていた刀剣を身に抱き寄せて、静かに床に目を落としていた。

 

 身体が宙に浮くのを感じ、再び船体の加速で肉体が重力を感じるようになった後で、オスキャルは少女を拘束から解放する。

 船内の客室へと案内したが、彼女は道中では何も喋らなかった。

 彼女を個室に案内して、部屋の鍵を渡す。

 あまりに何も言わないので、彼女を力づけようと背を叩こうとした時に、少女は口を開いた。

「それ以上、お近づきになるのであれば、私は舌を噛み切ります。」

 老人の手の動きを見るなり、少女はオスキャルから身を放してそう言い放つ。

 あまりに強い拒絶の反応に、彼は驚いた。

 

――ふむぅ、これはホンモノのお姫様だね。

 

 本物の中でもとびきり肝の据わった武闘派。

 オスキャルは、少女の反応に辟易とした態度を隠さない。

 最初は反応が面白かったが、こうツンツンされ続けるては扱いに困った。

「おい、誰かペトロワとシャロンをこっちに寄越せ。」

 通信機に声をかけて、この船に2人しかいない女子を向かわせる。

「お嬢の相手はこれから来る女クルーがする。2人の指示は艦長の指示だと思ってくれ。」

「傭兵風情がタテオカ家当主の娘に指示を出そうと言うのですか?」

 堅い口調の下には、警戒と自信が見えた。

 少女はその身の丈からは信じられないほどに、気迫を漲らせている。つい先程までは床に付いていたはずの膝は、既に宙に浮いていた。

 彼女の脇に抱えられていた太刀の位置が、すすっと左の腰に移動する。

 オスキャルは、自分の位置は彼女の間合いの内なのだと理解した。

「お嬢さんを助けに来た、トーマーク女公の仲間は、もう、誰も残っていねぇよ。船の中では艦長に従うもんだ、アカデミーでそう習ったんじゃねぇのか。」

 小さな女剣豪の視線がアカデミーという言葉に反応する。ほとんど柄まで移動していた右の手を下ろす。

 少ししゅんとした態度を見るに、学校では良い生徒だったのだろう。

 

「オジサマ、ペトロワです。」

 ちょうどそこへ、小熊のような体躯の女子が現れる。

 オスキャルは、目をそちらに向けて彼女に指示を出した。

「おう、この荷物の世話を頼む。」

 部屋の中を親指で指し示して、ペトロワに道を譲る。

 彼女が部屋の中に入るのを見届けて、客室の扉を閉じた。

 部屋の中からは早速挨拶の声が聞こえる。

「サチコ様でしたよね。艦内にいる間はこのタチアナが身の回りのお世話をさせていただきます。ペトロワとお呼びください。よろしくお願いします。」

 先にやって来たのが、シャロンでなくて助かった。老艦長はそう肩を下ろす。

 初対面でチョリース。と口にしようものなら、この乗客に叩き斬られるような予感がした。

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