Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Sacred Realm
BlueHole System, Nadir JumpPoint
Jade Falcon
12 January 3152
愚者の黄金という言葉は、黃鉄鉱を示す。
見かけ倒しであったり、期待したほどのものではなく偽りの価値であることを揶揄するのに使われる言葉だ。
黄金に輝くものに人の目は眩む。創成主は、この欲を悪とした。
だから、エレナは砂金の流れを見ても美しいとは思わない。
もしも同じような輝きに心を奪われることがあれば、主は雷をもて彼女を打つに違いない。
差し出された水源から、あまりに豊かな量の液体が湧き出すので、エレナは燦燦と輝く奔流のほとんどを溢れさせてしまう。
金色に輝くエレナの髪の流れと同じように、口に収まらなかった恵みは彼女の表情や身体を清め、洗い流した。
請うた慈悲の悉くをその身に浴びて、恍惚に身を震わせる。
――主よ、主よ、エレナはパンもワインも望みませぬ。でも、あとほんのもう一滴...。
蛇の頭にも似たそれと口づけを交わして、そこに残る雫を舌で掬う。
エレナが丹念に愛しめば愛しむほど、その蛇は鎌首をもたげて彼女を威嚇した。
もしも、この蛇が知恵の実を盗めと囁いたら、彼女はその誘惑に抗えない。
それほどに、エレナはその蛇に心を奪われている。
だからこそ、彼女はその愛しきを再び自分の口に収めた。
エレナの頭の上をマイと男の会話が交差している。
それには構わず、彼女は目の前の行為に耽った。
マイは報告を終えると、すぐにエレナ達に背を向けてしまう。
行くのか?と男が鋭い声で彼女に声をかける。
ほんの少しの逡巡の後に、マイは振り返ると男に歩み寄った。
「お邪魔でない時に、また。」
短く答える彼女の声は心の内に我慢を抱えているときのそれだ。
スッと、マイの顔が男の顔に寄って、2人の唇が重なったのをエレナは足元の影の動きだけで察する。
短い濡れた音を立て終えると、彼女は今度こそ立ち去ってしまう。
マイはとても独占欲が強い。男を独り占めできない状態で、その身を開く気にはなれないのだろう。
例え、肉体が望んでいてもそれを抑え込める精神を彼女は兼ね備えている。
――ヌルやエノリはどうしたのだろう?
エレナは共に生き残った仲間たちのことを想う。
ヌルは何か難しいことを考えていた。
一度で良いから、彼女も頭を空にする開放間に満たされて欲しい。
それはとても気持ちの良いことであると、ヌルやエノリにも知って欲しかった。