※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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愚者
Ep.27_01


Union class Dropship , Bridge

Alyina System, Nadir JumpPoint

Alyina Mercantile League

24 January 3152

 

『よし、バトちゃんとオユンちゃんによろしくな。』

 接続アームの開放を確認すると、カルディネはその言葉だけを残して、さっさと通信を切ってしまう。

 オスキャルは隣に立つナランと顔を見合わせた。

「よろしく、ったって、そもそもなぁ...。」

「どう、よろしくしたらいいのか。さっぱりですな。」

 子を儲けたことのない2人には理解のできない感情。

 若妻を捕まえたオスキャルには、ひょっとすれば、その機会があるのかもしれない。

 だが、それが実を結ぶとしても、未来の話だった。

 

「ご結婚なされたことで、何かお変わりはありましたか?」

 ナランが興味本位で尋ねてくる。

 結婚に興味があるわけではなく、大男は単にこの老艦長に何か変化があったのかを知りたがっていた。

「何も変わんねぇな。」

 少し、天井を見上げて考え込んだ後、オスキャルはそう答える。

 抱き心地が変わるわけもなし、甘えた声色が変わるはずもなし、お互いの時間が変わることもなし。

 サチコの要求がエスカレートするのは、最近に始まったことではない。

 今までと変わらない日常が、当たり前のように今日も明日も続くだけだ。

 

 腕を組んで、唸り声をあげてようやく一つだけ変化が思い浮かぶ。

「サチコがシタ先生にヨーガを習い始めたそうだ。弓のポーズ、わかるか?」

 両手を天井に向けて高々と掲げて見せると、ナランは困ったような顔をする。

「それが、弓のポーズではないことだけはわかります。」

「ダヌーラーサナであればこうだ。」

 声がかかった方向に目を向けると、そこでは左の脚を真後ろに振り上げて右の足だけで立つマイの姿があった。

 左の手で左の足の甲を掴み、前に倒れた胴は高々と背を反ることで真正面を向いている。

 右の手の甲を上に向けて真正面に向けて、体重のバランスを取る姿は確かに矢をつがえた弓のように見えないこともない。

 彼女の纏うぴったりとしたボディスーツのせいで、彼女がバランスを保とうとするたびに、大きく正面に突き出された胸の部分がふるふると揺れる。

 この船にやってきた頃の彼女は突き刺すような視線の持ち主だった。

 わずかに数日で、彼女の体躯も視線もその力を和らげている。

 何か余裕すら感じさせるマイの表情に、オスキャルは感心をした。

 

「サチコは床にうつぶせに寝そべっていたぞ?」

 それはそうと、彼女の見せた姿勢は老人の記憶にあった姿勢とは違う。

 マイが見せた姿のように、身体の平衡感覚と体幹を酷使するような姿勢は見た覚えがなかった。

「はて、私はプリヤンカ嬢からこれを教わったのだが...。」

 姿勢を解いた彼女も不思議そうな顔をしている。

 この場では、オスキャルの疑問は解けそうになかった。

 

 彼女の姿を見て、思い出したので訊ねてみる。

「マイは、アレと結婚して何かいいことはあったかね?」

 2週間前の一騒動が全てが終わった後に、彼女がヌルとの結婚を許可してほしい。と嘆願をしにきた。

 却下する理由もなかったので、オスキャルは許諾したが、その後の話を彼女の口からは何も聞いていない。

「ヌルは常に独房におりますので、大きな違いはありません。」

 姿勢を戻したマイは、涼しい顔で大嘘を吐く。

 彼女達の熱愛の様子は、エミリーヤからの苦情という形でオスキャルの耳に入っている。

 この齢になってから、女性同士の交わりが、男女のものに全く劣らないのだと知った。

 女エージェントの困惑した表情を思い出して、ほくそ笑む。

 オスキャルも独房が本来の役割を果たしていないことについては由々しき問題だと認識していた。

 艦長らしく、彼女には口を曲げて見せる。

「そんなに、すっきりとした顔をされても、説得力がねぇな。」

 マイは素直な女性だった。

 口ではなんと言おうと、彼女の手はボディスーツの上から腹の下のラインを添って動いている。

 揺れる尻のラインと胸を張った姿勢が、今のマイの心の有り様を表していた。

 変化の理由がヌルであろうと、別であろうとそれは良い変化に違いがない。

 オスキャルに、小さく首を傾げて見せる彼女は、間違いなくこの船の聖域に住まう女の一人だった。

 

「アリイナⅠまでは、5日弱の行程です。」

 早々に話題への興味を失っていたナランの報告が、話を区切る。

 手元の端末を操作して、モニターの一つに今後の航路を表示した。

「我々は、予定通りであれば星系首都のニューデリーに着陸することになります。」

 淡々とした説明に、オスキャルは頷く。

 少しばかり、やんちゃをした後だ。

 できることならば、地上のどこかでこの船の船体を念入りに走査したかった。

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