Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Suburbs Zuhai
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
14 Febuary 3151
周りが焦げ臭いのか、自分が焦げ臭いのかよくわからなかった。
広い青空の下、どこかの森の中にトヤーは放り出されていた。
気を失う前の光景が、まだ脳裏に焼き付いている。
真っ赤に熱を放つコクピットの装甲、真っ赤な警告ランプ、暗くなった生命維持装置。
機体が制御不能過ぎて、機能しない脱出装置。
思い出すだけで、涙が溢れ出てきた。
焼け落ちた森の端、黒く焼け焦げたJenner IICの破片が、まるで墓標のように地表に刺さっている。あれが彼女の棺になるはずだったのだ。
誰かにコクピットから引きずり出されたらしくて、背中がジンジンと痛んだ。
森の残骸を踏みしめる重い足音が、他の雑音に紛れることなくこちらに近づいてくる。全く急がない。しかし紛れもなく圧力はこちらに向かっている。
痛みを堪えて首だけで振り向く。視線の先に逆行の中に立つ緑色のメックパイロットの姿があった。男の目が、じっと彼女を見下ろしていた。まるで、落ちた獲物をどう料理するかを測っているような、猛禽類の目だった。
海賊の根城になっていた廃墟を...彼女達の住処を粉々にしたTimberWolfのパイロットだ。
一瞬、少し前の情景が思い出される。怖くて声が出なかった。
彼の異名をトヤーは知っていた。
——ツォンシャンの緑の悪魔。
「うわーお、まだ生きてる!」
場違いな軽い声が場の空気を壊した。
緑の巨人の背後から現れた男が、焦げた地面にずかずかと足を踏み入れる。小柄な体格、頭には左右で色の違うゴーグル、表情はやけに明るい。
「成層圏からの帰還の旅、成功おめでとう!お嬢ちゃん。でも大当たりだ。」
訳がわからず眉をひそめたトヤーに、彼はバヤルと名乗った。
HellsHorse氏族のある意味での有名人だ。星系を跨いだ大脱走劇の末にしばらく前からこの星の精神病院にいるはずだ。そんな彼がどうして彼女の前にいるのだろう?
ガチャンという金属音で我にかえる。ギリギリと、弦を引く音。
いつの間にか、漆黒のクロスボウがその手に握られていた。緑の悪魔の心が決まったようだ。
矢の先を向けられたわけではないけれど、トヤーは仲間の元に行く覚悟を決めた。
ぐっと目を閉じた彼女に、死か誇りか、選べ。と低い声がかかる。
「え?そんな、キツネちゃんは俺にくれるはずじゃ...」
クロスボウをトヤーに突きつける男の後ろでバヤルが不思議そうな顔をしている。
「……断ったら?」
それはトヤーの声ではなかった。彼女の喉の奥から自然に出た、ただの確認だった。
男は変わらず無表情だった。言葉はない。
選択肢がなかった。死ぬことすら選べそうになかった。
拒んだ者には価値がない。
次に行く。
そう言われた気がして、トヤーは息を飲んだ。彼から目を逸らして、震える手を伸ばす。男の掌がその手を無言で取る。
勢いよく、地面から跳ね起こされる。全身に激痛が走り、息が止まる。両の脚で立たされる。
「よっしゃあ!」
バヤルが笑い、手を叩いた。
「あれ?キツネの乗り手は俺じゃなくなったけど、まあいいか!」
バヤルの騒がしい声の方は見なかった。
トヤーが見ていたのは男がそのまま背を向けて去ろうとする姿だった。
何の感情も刻まれていないその背は何も語ってくれなかった。
気がつけば、彼も彼女も、名すら交わしていなかった。