Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship , Bridge
Alyina System, Interstellar space
Alyina Mercantile League
25 January 3152
「マレーナという女性は、ファルコンの戦士階級の生まれの方ですが、早々に氏族の戦士階級に愛想を尽かしてしまいました。」
通信席に座るアレフが、淡々と語るのは一つの国の建国物語。
ナラン達はアリイナに着陸する前に、今や氏族の支配を脱したこの星系の支配者の話を、このスリーパーの口から聴いていた。
「アリイナはマルヴィナが登場する前から、氏族に変革を要望されていました。要するに軍事物資と資金を氏族にもっと献上しろ。って話です。」
氏族からの要求に屈して、生産力のほとんどを軍事に転じさせられた商人達は窮する者が出る。
しかし、残忍な女暴君がそんなことを気にするはずもない。
「戦士にならずに、商人となっていたマレーナはこの要求を拒絶します。怒ったマルヴィナは彼女の暗殺を企てますが、これは実行されずに終わりました。SeaFoxが彼女を守るでしょうから、これは賢明な選択でしょう。」
「なんで、SeaFoxが彼女を守るのよ?」
珍しく艦橋に顔を出していたアリマが疑問を口にする。
ちょうど、そのSeaFox氏族の企みに加担していたエノリの尋問を終えて、報告するついでにこの場に居座っていた。
目当ての艦長席の下に隠された瓶入りの炭酸水を吟味しながらアレフの話を聞いている。
「個人の意見ですが、ライバルのいない商売に未来はありません。仲の良い競合他者との競争にはお互いに良い影響があります。」
その昔のFalcon氏族はSeaFoxに匹敵するほどの、商業力を持っていた。
しかし、マルヴィナの呆れたドクトリンは氏族の力の土台を破壊してしまう。
暴虐な氏族長の下でも狡猾にその力を保ち、ヴォルトシップを中心とした商人艦隊を手中に収めたマレーナ。
彼女ならば、Foxの最高の協力者たり得た。
SeaFox氏族は、密偵や、遺伝子という形でFalcon氏族の内部に浸透している。
エノリを構成する螺旋の片方も、SeaFoxから提供された遺伝子。彼女の身体の半分はSeaFoxで出来ている。
黒狐を意味するエノリという名も、彼女がSeaFoxの甘言にのったのも、根源は同じだった。
混じり物が、悪意を成す。力を失い、統率を失えば、ビネッティビークが影でエレナに掌握されていたように、この集団も狐の手に落ちる。
「あんた、本当にSeaFoxの人間だったのね。」
「素直に認めてるんだから、拷問はしないでくださいよ。」
「あんたはまだ手足付いてるでしょ。」
茶化すアレフに、引かないアリマ。
ナランはその様子を見て、心の中で溜息をついた。
これがただのじゃれ合いで済んでいるのは、まだこの船の聖域に彼らの主が在ることに理由がある。
この旅の最初から船に潜んでいたアレフは、ドルジがこの部隊から姿を眩ました直後に本性を現わした。
SeaFoxはこの船に乗るアンネの動向に巨大な関心を持っている。
だが、アレフが艦長のオスキャルに熱線銃を向けて、この船の聖域と呼ばれる場所を探り出そうとしたのは別の目的。
アンネは、彼が聖域の存在を認識することを許していない。
だが、アレフはドルジの生存と、彼の隠れ家が聖域であるところまでを確信している。
彼の生存の確証を得るために、アレフは独りで銃を握った。
だけど、それはアンネに予見されていて、彼が行動を起こす前から終わりが決まっていた。
ことの顛末はこの船の公式の記録には残されていない。だが当然、ナランもその内容を知らされている。
「僕はドルジさんが大好きなんです。ほら、そういう意味では、僕たちはお仲間でしょう?」
アレフはアリマを説得するように言葉を口にした。
ナランはここ数日、同じやり取りを目にして、耳にしている。
2人の違いは、ドルジと逢っているかいないかだ。
だが、彼女と違って彼の望みは一向に叶えられていない。
傍目から見ていると、これは平和な茶化し合いに見える。
「せっかくですから、聖域のお仲間に入れて欲しいくらいです。」
「絶対イヤよ。アレフにあたしの柔肌を見せるとか。イヤラしい目して見てきそうだもの。」
だが、アリマは胸の前で腕を交差させて、彼の来訪を強く拒絶した。
アレフは明確にアンネの聖域への出入りを望んでいる。
しかし、すっかりアンネに嫌われてしまったせいか、彼は今や医務室の場所すら認識が出来なくなっていた。
アレフは聖域で何が起こっているのかを、知りもしない。
聖域でのアリマの姿を知っているナランは、やり取りを聞きながら遠く宇宙の果てを見つめた。
そのままの姿勢で、ぼそりと苦言を漏らす。
「まず、そもそも聖域はそういう用途の場所ではありません。」
肌を晒すだけでなく、アリマが何をしているかまで、聖域の守護を任されている彼はよく知っていた。
どうしてアンネが彼女の聖域への進入を許したのかは、ナランには分からない。
双子が生まれたあとは更に制限が緩められ、エレナやマイまでが進入を許されている。
「ナラン、アリマは柔肌を見せる。とまでしか言ってねぇぞ。」
助けを求める意図は無かったが、艦長席からのオスキャルの声が全ての会話を遮った。
「要するに、アリイナはあまり味方の勢力圏だとは思わねぇ方が良いってことだ。SeaFox氏族もいるし、女王サマは隼の戦士にいい感情を抱いちゃいねぇ。」
「アリイナでの仲介には、星系に雇われていたローンウルヴスという名の傭兵を使いましょう。マレーナからの信頼を生かしてうまいこと仲介業にような仕事をやっているようです。」
困り顔をした老艦長に、アレフはすぐに提案をする。
口が達者な人間が増えるだけなら、ありがたい。だが、それはその人間が信頼に足る場合だけだ。今のアレフに背を預ける勇気はナランにはない。
「アリマの監視がついても良いのなら、そいつらへの接触は任せる。」
一瞬、不満そうな顔をアリマが見せた。だが、オスキャルの指示に抗議の声まではあげない。
アレフもその下知に不満を述べずに応えた。
「承知しました。まぁ、誰かのご指示がなくても僕はずっと彼女に監視されてるんですけどね。」
その言葉を耳にしたアリマがまるで犬のように彼を威嚇する。
ナランは、この組み合わせに不安を感じた。
もう一人くらい、誰か突飛でない人間が必要ではないだろうか?
そう考えても、交渉の候補となる人間に心当たりはない。
不安そうな表情が顔に出ていたのか、突然に彼の頭の上から、火の粉が降ってくる。
「ふむぅ、ナランも行きたそうだな。じゃあ、お前は俺の名代だな。」
オスキャルの言葉にナランは、驚かない。
その采配に、不満があったとしても、彼の答えは常に決まっている。
「承知しました。」
顔を左右に振って、表情の曇りを消した。
命じられたままに成すべきことをやる。世にはそれしか出来ない人間も多い。
ナランの評価では、彼もそのうちの一人だった。