※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.27_04

Union class Dropship , Medical sect

Alyina System, Interstellar space

Alyina Mercantile League

25 January 3152

 

「なんで、あたしがエノリの監視役なのかとか聞かれても、知らねっす。」

 実際、そんなことを訊かれても、シフは答えを持っていない。

 考えれば考えるほど、他にやれることが無いから。とか、そういう理由しか思い浮かばなかった。

「暇人じゃないっす。」

 と、否定できるならば、そうしたい。

 しかし、よくよく考えれば、双子に物語を読み聴かせたり、おしめを変えたりと忙しく働く姿は、到底戦士らしいとは言えなかった。

 今は小さな赤ん坊たちを母親に任せて、片手の手首から先を失った捕虜の口に豆の麺の入ったスープを運んでいる。

「パイロット?」

 エノリは小首を傾げて、一言だけ疑問の単語を口にした。

 彼女の黄色い髪の毛が一筋だけはらりと落ちる。

 エノリはそれをかき上げることもなく、湯気の立ち昇る透き通った麺に自分の息を吹きかけて、それを小さな口の中で頬張った。

 持ち上げた箸を伝わる口の中の動きを感じ取りながら、シフはなぜ自分がこの仕事をしているのか考える。

 この船の他のクルーが、上陸準備で忙しいのは事実。

 だが、泣き虫のバトアルマスにも、賢いオユントゥヤにも、そんな大人の事情は関係がない。

 彼らは泣きたいときに泣き、引っ張りたくなったときにシフの黒髪を引っ張るのだ。

 だから、これは彼女が暇だからの配置ではない。完全な適材適所。

 だから、シフにはさっさと捕虜の食事を終えて、2人の赤ん坊の元に帰るという大任があった。

 

「...だから、パイロット?」

 再び疑問の声を上げたエノリの声に、ムキィ!とシフは地団太を踏む。

 左の手に握られていた2本の棒が、凄まじい勢いで病室の端まで飛んでいく。

 エノリの目がその軌道を追い、寝台に繋がったベルトが軋みをあげ、千切れる。

 シフの金属色の腕がブンブンと音を立てていたが、エノリはそちらには興味を示さなかった。

 乾いた音の後で、まるで非難をするような目で睨まれるとシフは嘆息する。

「表情だけで、心の声を全部読まないで欲しいっす。」

「全部、声に出ていたわ。」

 目を瞑って叫ぶシフから受け取った容器を、エノリは寝台に備え付けられたテーブルの上に載せた。

 赤くなった指先を吐息で冷ますしぐさに、怒りを忘れて見惚れる。

 だが、エノリが無言で3本の指を開いたり閉じたりするのを見て、何も言わずに席を立った。

 

「私も義手を付ければ、あなたのようにまた動けるのかしら?」

 シフは彼女の溜息に混じる言葉に首を傾げる。

 アリイナに行けば、応急処置よりももっといい処置を改めて受けられるはず。

 そう考えて、床を転がっていた箸を湿ったシートで清めながら疑問を返した。

「再生医療を受けないすか?」

「あら、そういうあなたはどうして再生医療を受けなかったの?」

 細胞片から身体の欠損した部位を再生して、手術で繋ぎ直せば、その機能は回復する。

 シフはそうしなかったのではなく、できなかったのだ。

「ツォンシャンにそんな設備は残ってねっす。」

「そう、てっきりあなたは時間が惜しかったのかと...。」 

 戦士がパイロットでいられる期間は短い。

 十年経たないうちに死ぬものも多いが、死ぬ前に戦士を続けられなくなるほどに心身を疲弊させるものもいる。

 身体の治療にかかる期間と、その後のリハビリの期間。それが短期間で済ませられるのは、未だに再生医療ではなく、義肢の方だ。

 早く戦場に戻る方法を選んだ戦士は、今のシフのように欠損した部位を機械で代替した姿になる。

「あー、そういうのは全然考えてなかったっす。」

 そもそも彼女のように生きながらえて、更に再び戦場に戻る機会を得られる例はあまりない。

 亡くなったエノリの仲間たちのように、遺体になる可能性の方が高かった。

 自分の居場所が奇跡に近いことを、シフは知っている。

「義肢にするっすか?」

 シフはエノリに訊ねた。

 彼女にはシフよりも多くの選択肢がある。

 アルタンエルデネならば、彼女がどちらを望んでも、それを叶えることができるかもしれない。

 外見も中身も、怪しい初老の男性だったが、腕は確かな医師だった。

 トヤーの手術も、彼がほぼ独りで執刀している。

 一呼吸置いた後に、零すようにしてエノリはその問いに答えた。

「...ヌルが、戦いを続けるならば。」

 自分のことなのに、なぜ人の意思が介在する余地があるのか。シフは考えを少しだけ巡らせる。 

 バトアルマスとオユントゥヤ、2人の世話をする彼女のような関係ではない。

 エノリの手元の容器が目に入った。

 中身は既に空にされている。

 

 人は自分が生きる理由を他者に委ねていいものなのか。

 それは、ただ飛べれば良かったシフにとって、とてもとても難しい難題だった。

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