Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Safdarjung Spaceport ,Landing Pad3
Alyina System, New Delhi
Alyina Mercantile League
30 January 3152
周囲の喧騒をよそに、ゆったりとしたテンポの音色にのせて、野太い男の声が駐機場に鳴り響く。
赤い巨大な宇宙船を背後に、黒いローブを着た娘が半球状の胴体を持つ弦楽器を撥で弾いている。
その隣で胸に手を当てて、喉を震わせているのはほとんど熊のような大男だ。
親子のような身長差のある2人が、奏でる調べを長椅子に腰掛けた4人の聴衆がそれを聴いている。
~赤いサラファンなんて縫わないで、お母さま。
そんなに手間をかけても無駄なのよ。
髪を2本に編み分けるのはまだ早いわ、
まだ飾り紐で飾っていたいの。
絹のベールなんてしたら、男の子から相手にされなくなってしまう。~
4つの弦が鳴らす繊細な響きに齢を感じさせるガッシリとした力のある声は不気味に調和してみせた。
金属とコンクリートで塗り固められた宇宙港の片隅で突然始まったコンサートに、何人かの人々が足を止める。
物珍しそうな顔で、隣の着陸床からも見物客が集まってきた。
~今の暮らしをまだ手放したくないわ。
焦って嫁入りをしても、後悔するだけ。
一番大事なのは自由よ、
何ものにも代えられないわ。~
朗々としたバスの歌声で謳い上げる、熊のごとき大男の重低音は交響曲のような迫力がある。
油と煙で汚れて黒くなった作業着の男が若い娘の自由を尊ぶ声を代弁すると、今まで椅子に座っていた女がすくっと立ち上がった。
両手で白い布に包まれた赤子を抱いた、褐色の肌の娘が大男を見上げながら、その後のメロディを引き継ぐ。
~我が愛娘よ、
何て浅はかなのでしょう。
お前は一生、小鳥のように
歌って過ごすつもりなのかい?
花々に舞う蝶々ではないのだから。
どんなに美しい花々もやがては色褪せて、
楽しかった遊びも次第に退屈になるのだよ。~
眼鏡の奥からの男を挑発するような眼差しと、プリヤンカの大きく膨らんだ丸い腹が距離の近い見物客の背筋をくすぐる。
落ち着いた太みのある歌声は、さっきまでの男のそれに負けない安定感を感じさせた。
交互に繰り返される男女の歌声に惹かれて、着陸床の出入り口には人集りができ始めている。
オーケは首を傾げた。
どうして、ペトロフとアンネが船の外でリサイタルを開いているのか?
なぜ、聖域に閉じこもっていたはずのプリヤンカとツェレンが外に出ているの?
めちゃくちゃ目立ってるじゃんか?
両手を広げて、部外者の進路を妨害しようにも限界がある。
宇宙港のエプロンには着陸床とその周辺を遮る壁のようなものはない。
打ち上げで退避命令が出ていなければ、周囲からの目や耳から無防備になる。
野次馬の中に、悪意を持った人間が交じりでもしていれば、2人の赤子を抱えた女たちが身を守る手段はどこにもない。
――誰か、ボクを助けてっ!
全く無意味な努力を続けながら、オーケは心の中で叫び声をあげた。