Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Safdarjung Spaceport ,Lounge
Alyina System, New Delhi
Alyina Mercantile League
30 January 3152
オスキャルは、宇宙港のターミナルビルから自分の船の様子を眺めていた。
~エイ、ウフニェム!エイ、ウフニェム!
空に灰色の雲が広がり、雨と雷が降るようになっても赤い降下船は音楽を奏で続けている。
雨足が強まると、さすがに宇宙港のラウンジからでは饗宴の音は聞こえなくなった。
至極幸運な20人に満たない人間だけが、船の第3格納庫に招かれて音色の続きを今も耳にしている。
~アイダ ダ アイダ!アイダ ダ アイダ!
雑音を貫いて、僅かに掛け声のような歌声が時々耳に入った。
黒衣の楽士の手には、弦楽器ではなく今は背を合わせた2本の木匙が握られている。
大熊の歌声に合わせて、それが打ち鳴らされる音は、固い地面を叩く水の音に紛れて聞き分けはできなかった。
「あれが、今のお前の船か。」
複雑な感情の籠った女の声に、オスキャルは口元を緩める。
振り返れば、そこには黒い肌をした青白い双眸の女性が立っていた。青と銀色の制服に身を包んでカールした髪の毛を螺旋状に纏め上げている。
彼女が宇宙港で仕事をするのを好むことは耳にしていた。
だが、早速ご本人がやって来るとは恐れ入る。
「これはこれは、女王様がお出ましとは。」
商人女王の名は彼女の自称だが、それはマレーナの今の状況を良く表していた。
「余計な挨拶は不要だ、艦長」
氏族の人間に相応しく、彼女は無駄な話を好まない。
「もう、お前はゴーストベアーの氏族の戦士では無いのだろう?」
「20年も昔に軍人は辞めた。お前さんと最初に出会った頃には俺はもう自由の身だったはずだぞ?」
確かめるような女王の言葉に、オスキャルは返事を返す。10も歳下の若造にナメられる謂れはない。
彼女は老人の無礼な口ぶりを気にすることなく、彼に視線を向ける。
「お前にヴォルトシップの艦隊を一つ任せたい。と言ったら、心は動くか?」
「ねぇな。」
マレーナの誘いの言葉を、オスキャルは一言で断った。
彼が大型の宇宙戦艦の艦橋に座っていたのは、とっくの昔の話だ。今更、制服の立場に戻る気は無い。
「俺はもう隠居したんだ。わかるか?ドロップアウト。もう若くはねぇんだ。」
「こんな火遊びをする御老公が、引退を口にするのを信じろと言うのか?」
彼女の言う、こんな、がどれのことを指しているのかは、オスキャルにはわからなかった。
心当たりがあり過ぎて、一つには到底絞り込めない。
「わかってねぇな。現役じゃ火遊びは出来ねぇんだよ。今だって、お前ぇさんにいつ粛清されるか、ってワクワクしてる。」
得意満面を作って言い返す。
銃口による解決を極端に嫌うマレーナだが、時にはそれも必要であることを彼女は覚えるべき立場にあった。
身振りや口振りで、交渉相手の好感を引き出す方法を女王は熟知している。
その手管がこの老人には通じないと知っていたのか、女王は早々に諦めの表情を見せた。
「それはそうと、この星にはしばらく居るつもりだ。身の置き場については、協力して欲しいもんだな。」
相手が手を引いたところで、その手を掴み取る。相手の懐に入り込むタイミングの王道だ。
これは商売というよりは、外交の手口なのかも知れない。だが、オスキャルはいわゆる商売の手口は知らなかった。
交渉が利益を生む。物質のやり取りや力のやり取りはそれに付随するだけ。
それがオスキャル流のビジネスの考えだった。