※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.28_03

Safdarjung Spaceport ,Union class Dropship , Bridge

Alyina System, New Delhi

Alyina Mercantile League

31 January 3152

  

 艦橋の中央に座るオスキャルは、難しい顔をして手の平に収まりそうな紙の本を眺めていた。

 医者が入り口をくぐると、彼はその冊子の一節を読み上げる。

「子曰、知之者不如好之者」

 それを耳にしたマリオが、その言葉を引き継ぐ。

「好之者不如楽之者」

 してやった、と言わんばかりの含み笑いがその場を支配する。

 その様子を見たアレフは深いため息をつく。

「もう、その辺にしてあげましょうよ。」

 彼らとは違って、アレフは所詮ツォンシャンに配置された浸透工作員だった。

 マレーナのことは何も知らないし、面識もない。

 それでも、この2人の遊びに付き合わされる彼女への同情の気持ちが沸く。

「人聞きが悪いな。ウチの船員はみんな楽しく音楽をやってただけだよなぁ?」

「途中で雨が降るとは不運でしたな。」

 なんのことやらと白々しく、首を傾げる二人の表情は本当に楽しそうにしている。

 しかし、彼らは星系の盤上をいつ書き換えてもおかしくない。

 彼女が寝込むまで、この遊びが続くのは困る。

 だが、どう諫めてもこの2人には意味がないことを、アレフは知っていた。

「あの、お嬢ちゃんは普通じゃねぇよ。」

「そうですな、もう一押しくらいあってもいいでしょうね。」

 まだまだ、攻め手を緩める気のない彼らの様子に彼は表情を曇らせる。

 彼らはまだ、マレーナだけを相手にしているつもりだ。

 しかし、この船は既にその背後の存在にも手を出している。

「あたしが、やっといたわよ。その一押し。」

 小悪魔の声を聞いたアレフは、両手で顔を覆った。

 艦橋に踊り込んだ小さな存在は、自信を漲らせて胸を張っている。

「狐どもと一緒にHPG通信網、復旧させてるんでしょ?って一煽り入れといたわ。」

 何の暗喩もないアリマの一言と共に、モニターの一つが彼女に乗っ取られて、いくつものウィンドウで開かれた。

 アレフは手の位置を変えずに、首を振って何も見ていないふりをする。

 それはSeaFox氏族の中でも、本当に一部の人間しか知らないはずの情報。

 彼女がさらっと披露した危険物の存在に、オスキャルとマリオは顔を見合わせた。

 

「いや、俺達でもそんな恐ろしい火遊びはしねぇわな。」

「若いというのは良いことだ。老いた我々とは度胸が違う。」

 彼女の方に視線を向けずに、老人たちは口々にアリマの勇気を称賛する。

 

――ところでさ...、あたし、お宅のボスが隠してる最高機密を知ってるんだけど、なんか聞きたいこと、ある?

 

 この悪魔は、雇用の交渉の場でそう口にした。

 情報の1枚目の冒頭を読んでしまったチェゲの悲鳴を、アレフはまだ覚えている。

 タブを指し示す指先を震えさせた彼が、それ以上先を読むことはなかった。

 それを見て、喜悦の笑みを浮かべたアリマの交渉術は破天荒を通り越して、もはや常識と倫理がない。

「ちょっと、こっち向きなさいよ。これでもこっちは乙女なのよ?」

 見た目だけは少女の彼女が、老人たちのあからさまなイジメに憤慨する。

 その様子を目にして、オスキャルは笑いながら頭を掻いた。

「情報の出所と精度は聞かないとして、これで我々は周囲の全てに喧嘩を売ったわけだ。」

「いつものことでしょ。少なくとも、この星系にいるうちはそうそう手出しはしてこないわよ。」

 

 シタが出産を終えるまで、少なく見積もっても7ヶ月はこの星系をこの部隊の根城にすることになる。

 医療設備があり、降下船を置ける施設はこの付近では隣町のノイダにある、かつてのファルコンの守備隊の駐屯所しかない。

 ドルジとエノリがマーキングをしたあの施設だ。

 アレフは大きなため息をつく。

 この策略の中に入れてもらえないのが、寂しいと思う気持ちもある。

 だが、決してこの輪の中には入りたくない。そう、強く思う心がどこかにある。

 そんな中途半端な距離感を保ったまま、なぜかアリマは彼を手放す様子がなかった。

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