Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump Command Office
Zhongshan System, Zuhai
Jade Falcon
10 March 3151
かつて司令官室と呼ばれていた部屋の扉を叩くと、簡潔な返事が帰ってきた。
「入れ」
ユルは手に持ったパッドを軽く握り直しながらドアを開ける。
中にはコボルが一人。
「時間を取らせる。少しだけいいか」
ユルはコボルの真向かいのソファに身を預ける。
「構わん。どうせ数字しか相手にしていないところだった。」
コボルが手にしていた帳簿を床に放り出す。
「7番機、シフの機体の装備パターンをCにしたい。ツェレンからの提案だ。」
「賛成しかねる」
ユルの提案をコボルは却下した。
「装備を長射程化して、突っ込み癖を抑える算段だろうが、あの性格で機体の排熱と機動をコントロールするのは無理だ。」
機体の排熱制御の失敗はパワーダウンに繋がる。相手と格闘戦をしたがる彼女にC装備が御せるかどうかは確かに怪しい。
ユルもそれは否定できなかった。
「それに、彼女専用に C装備を維持するための物資を確保できるほど、基地は裕福ではない。」
先に性格のせいにして、最後に予算の話を持ってくるあたり、コボルらしい言い回しだった。
ユルは黙ってうなずいた。コボルの言葉は冷たいが、事実だった。
ユルのパッドの上にはシフの飛行ログ、そしてツェレンのコメントが表示されていた。そこにはコボルと同じ懸念が示されていた。
「……わかった」
二人の間に短い沈黙が落ちた。
「海賊退治は次の一戦で一区切りだ。母船のコルベットを沈めれば、全ての船が宇宙の藻屑だ。ツェレンにはそれまで撃墜されないように頑張ってもらってくれ。」
そうすれば、シフを再訓練、再編成する時間もできる。
「隊の再編も視野に入れておくべきか?」
ユルは問い返した。
コボルはしばらく黙った後、口を開いた。
「……地球侵攻が、もうすぐ終わる。」
「そうか。」
地球に行った戦士達が帰ってくるのなら、隊どころか基地が再編される可能性すらあった。
「つまり、あの考えなしが帰ってくるぞ。」
色々な懸念を振り払うようにコボルが少し明るい声で言う。
「ツェレンが喜ぶな。」
苦々しい顔をしながらユルは応じた。
——そうか、あいつが帰ってくるのか。
「ただ追いかけ回してたあいつとツェレンが恋仲に、恋人から夫に。大層な出世だ。」
「皿洗いから基地司令になった男が出世の話を?」
コボルに言葉を返しながら、ユルは難しい顔をする。
ユルも一介のパイロットから部隊長へと昇格していた。
それもこれもあいつの考えなしのおかげだ。
あの夜の秘密を知るのは、当事者3人と、銃声を聞いて駆けつけたコボル。
4人だけだ。