Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.29_01
Camp Jaipur HQ ,Entrance
Alyina System, Noida
Alyina Mercantile League
6 February 3152
ほっそりとした脛、良く締まった腿。
黒いストッキングに包まれたそれは実際よりも細く艶っぽく見える。
顔を傾けてみると、靴の踵を支える細くて高いヒールが目に入った。
鋭い杭のようなそれはまるで床に突き立っているかのように見える。
座り込んでいたシフが視線を上に向けると、巨大な2つの球形が目に入った。
それは、細いくびれの先に実っていて、背の低い彼女が手を伸ばした程度では手にできる高さではない。
「代表の方にお会いしたいざます。」
二つの球が揺れながら、シフにそう告げた。
正確に言えば、彼女にそう告げている口は、その球の向こう側にある。
だが、目前の彼女の表情は、大きな山脈が邪魔をして、シフの目の高さからは伺えない。
「ちょっとだけ、離れてもらえると助かるっす...。」
ほとんど真上に向けて、首を傾け続けたせいで、両目をチカチカとさせながら、シフは力なく呻いた。
訝し気な表情を浮かべながら、彼女が半歩だけ後ろに下がると、ようやくシフは肩の楽な姿勢で、彼女と視線を合わせることができる。
「どなた様でしたっけ?」
よろよろと立ち上がって、彼女の顔を再び見上げたが、首の角度にほとんど変化がなかった。
視線を水平に戻せば、目の前には彼女の肢体にピッタリと張り付いた、衣装越しの臍の窪みと二つの大きな房の下側の弧が、辛うじて視線に入る。
「イーグルクラフトグループのエリザベータざます。」
四角いレンズの眼鏡の位置を指で戻しながら、彼女は再び名乗った。
天井に届きそうな巨躯を収めたかっちりとした服が、柔らかそうに動くせいで同じ内容を何度耳にしてもシフはそれをすぐに忘れそうになる。
ツェレンやアンネの巨峰と比べれば、エリザベータの胸は控えめな部類だ。
彼女の迫力の根源は、高い身長にある。
小さな巨人のような身長の持ち主が、高いヒールを履き、長い髪を高く結んで束ねていた。
デカいだけではない。すらっとした長い脚に支えられて、彼女の細身の身体も小さな顔も、とにかく全てが高い位置にあった。
「要件がわかんねーと誰に合わせたら良いか、わっかんねーっす。」
エリザベータを見上げていると、彼女の眼鏡のフレームが上側にしかない理由が理解できる。
レンズの下側にフレームがあると、全てを見下ろすのに邪魔になるのだ。まつ毛の長い細い目で見下ろされながら、シフはそんなことを考える。
「普通、代表と言えば一人ざます。要件を聞かないと案内すら出来ないというのは、教養が足らない証拠ざます。」
死線に加えて、言葉でまで責められると、さすがのシフもムッとした。
「そんなこと言われたら、とりあえず誰にも合わせたく無くなるっす。」
膨れっ面をして、そっぽを向く。
この来客が非常識なのか、自分の応対が大人気ないのか。頭の中で思考を巡らせる。
脳内で結論が出る前に、思索は遮られた。
「ねーねー、シフー?オシメの替え知らない?」
バタバタと足音を立てながら現れたトヤーは、すぐに目の前に聳え立つ、新たなおもちゃに目を輝かせる。
悪戯を思い付いた少女の表情に、エリザベータは怯む様子を見せない。
しかし、彼女の平静はそこで終わりだった。
「お姉さん、背、高いねー。ヤバすぎー。」
そう口にしながら、トヤーの両手は真っ直ぐに彼女の双丘を鷲掴みにする。
呆気に取られるシフの目の前で、エリザベータの胸元から覗く白く柔らかい部分が、自在に形を変え始めた。
指を柔肉に埋もれさせたり、ぎゅっと搾ってみたりされれば、今にも中身が服の下から飛び出しそうになっている。
我に返ったシフが止めに入る前に、エリザベータは小さな蛮族の手から逃れた。
「い、いきなり、人の胸に触れるのは教養が無いざます。」
「そーだよ、教養どころか、あたし、先月より前の記憶が無いからね。」
更なる追撃を企図して、両手を構えるトヤー。
シフは彼女の言葉がさすがに誇張であることを知っていた。
「先月はウソっす、せいぜい一年っす。」
トヤーを取り押さえようと、シフは彼女を後ろからその腕ごと抱き抱える。
動きを封じられたトヤーの目をエリザベータが覗き込んだ。
わざわざかがみ込んで、目の高さを合わせて深くまで鋭く凝視する。最初はつい、露わになった胸の深い谷間にシフは目を吸われていたが、エリザベータの目の力に気がつくと、今度はそちらから目が離せなくなった。
「...記憶喪失の話は、嘘じゃなさそうざますね。」
心の内側を覗き込むような眼差しに、トヤーまでもがすっかり動きを止めてしまう。
「最近の記憶が無いのは、記憶喪失ではないざます。それは神経とは別の心の病ざます。」
エリザベータは、眼鏡の奥からの鋭い眼差しを変えないままに言葉を続ける。その言葉を聞いたトヤーは彼女から視線を逸らしてしまう。
「あ、そうだ。シフぅ、オムツの替えどこ?」
露骨に話題を変えたトヤーの素振りに、シフは少しだけ不安を覚えた。
シフはゾリグのパートナーであること以外、記憶を失う前のトヤーのことをほとんど知らない。
それでも、2人の赤子の世話を手伝う彼女のことは好いていた。
もし、インプラント除去手術の後も、彼女の内なる世界が今も壊れ続けているのだとしたら。トヤーがそれを隠して、今を明るく生きているふりをしているのだとすれば、それは義肢のリハビリを重ねたかつてのシフとは意味合いが違う。
エリザベータに興味を失ったのか、トヤーは赤子のオムツを求めて、そのまま逃げるように居なくなってしまった。
「一緒にいて、何も気が付かなかったざますか?」
背の高い客人のキツめの言葉と視線に、今度のシフは返せる言葉が無かった。