Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ship Yard Area , Entrance
Alyina System, Noida
Alyina Mercantile League
8 February 3152
何も言わずにゲートを通り抜けようとした、リーザ達の前に屈強な警備員が立ち塞がった。
「待て、貴様ら...アポイントメントは...あ...っはぁ...」
制止の声に素直に歩みを止めたアリマは、彼らの前に飛び出してきた男に目を向ける。
だが、彼女の隣を歩いていたリーザは、警備の男のすぐ間近に迫るまで、脚を止めなかった。
長身の迫力に気圧されたのか、腰の引けた声を漏らした警備員から威圧感が消えている。
男の不審な反応の理由をアリマはすぐに見つけて、理解した。
彼女の視線の先では、長身の女の長い脚の先が、彼の足の上に乗っている。
リーザの鋭い踵の先は、警備の男の固い靴の革を徐々に破り、埋もれていく。
それをやっている当人は蔑視するかのような目つきで、全身を戦慄かせる男を見下ろしていた。
アリマはそれに何も言うことができず、見守っている。
「急に人前に飛び出すなど、教養のない人間のすることざます。」
そう口にしながら、彼女は体の重心を更に前に進めた。
鼻同士が触れ合いそうなほどに顔と顔が近づいても、男は何も言い返せずに、ただ唇を真っ青に染めて震え続けている。
やがて、何かが押し破られる音に続いて、固いものが潰れて砕ける音が聞こえた。
ついに屈強な男は歯をガタガタと揺らしながらリーザの肢体にしがみついた。
「商人連合のリーザが通るざます。よろしいざますね?」
彼女の脅すような言葉に彼はがくがくと首を縦に振る。
それを目にすると、彼女は彼の頬を平手で勢いよく叩く。
重い肉体が小さな悲鳴と共に横に倒れこむ。
「淑女の腰に無遠慮に触れるのは、教養のある人間のすることではないざます。」
リーザのお決まりの言葉の下で、掠れるような息を漏らしながら、警備員は足を抱えてもがき始める。
彼の股の間の布が徐々に色を濃く変えて、周囲の空気に強い臭いを放つ液体が流れた。
唖然としながら、同僚の様子を伺う他の警備員を一瞥するとリーザはすっと、男の足の甲から踵を引き抜いて言い放つ。
「これで彼も、教養が身に染みたはずざます。」
自由になった足を抱えながら、すすり泣く大人の男を短く嘲ると、彼女はそのままその先に向けて歩みを進め始めた。
「ぶひぃ...ぶひぃ...」
あまりの痛みに、家畜の声ような呻きをあげる警備員を脇目にアリマたちもリーザの背を追い始める。
突然の蛮行に、彼女たちの後を追ってくる人は誰もいない。
――教養...ってなに?
アリマは目を瞬かせながら、目の前で起きた出来事を反芻した。
だが、その行為はまるで無駄に終わる。
後ろを振り返れば、ゾリグやナランも豆をぶつけられた鳥のような表情を並べていた。
作戦ではリーザに商人連合の名を出させて、現場が対応に追われているうちに建物の奥に入り込む。
そんな算段だったはず。
どうして、警備兵の足に穴を空けて、失禁させなければならなかったのか。
リーザはいつの間にか手にしていたカードを掲げて扉をどんどん開いていく。
それは警備員の胸に差さっていた、名札の代わりだった。
「その手技も教養ってわけ?」
アリマは意を決して、リーザに声をかける。
彼女は眉ひとつ動かすことなく、平然とそれに答えた。
「当然ざます。ここの警備長のキーカードならば、この建物の奥にある格納庫まで全ての道が拓けるざます。」
長い脚と高いヒールにも関わらず、リーザは早足で予定通りの進路を前に進んでいく。
稀にこの建物の従業員とすれ違っても、その高い長身に相手が驚いているうちに彼女は先に進んでしまう。
手にしたカードで次々とセキュリティを抜けていくリーゼを止めようとする人間はいない。
「ちまちまとアリマさんがシステムを弄るよりも、余程早いざます。」
背の低いアリマは、置いていかれないように、ほとんど走りながら彼女の後を追った。
ついに、最後の扉が左右に開いてしまう。
全員が仲に入ったことを確かめると、リーゼは用済みになったカードキーを室内の床に放った。
さぁ、進むざます。と彼女はアリマ達に声をかける。
彼女の言葉の意味は理解できた。
しかし、目の前で起きた一連の出来事に、アリマの理解はまだ追い付かなかった。