Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.04_01
Ammo Dump lounge
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
16 March 3151
格納庫に、轟音が響いた。
天井の高い薄暗がり、重たい空気の中で、TimberWolfの始動音は骨の奥まで響く。整備と装填を終えた緑の巨人が、目を覚ます瞬間だった。
トヤーは足元の金属床を見つめたまま、ゆっくり息を吐く。工具箱の横に置いた手が、わずかに震えていた。
誰もいないはずの広い格納庫で、エンジンの振動と彼女の呼吸音だけが響いている。
こんな時はどんな顔をしているのか、ふと自身の表情が気になって、トヤーはそっと顎に手を当ててみる。整備服の袖が少し下がり、白い手首が照明に浮かぶ。昔から細い指や腕だとからかわれたけれど、それが女の子らしさだと実感したことはほとんどない。
けれど、TimberWolfの大きな脚をよじ登ってランチャーのハッチを閉めたとき、ふと、トヤーはキャノピーに映った彼女の姿に息を呑んだ。
乱れた髪が額に落ち、油に濡れた頬。幼さと大人びた線が混ざった自分の横顔。
廃墟で暮らし、整備の行き届かない船で働いていた頃とは大違いの自分がいた。
TimberWolfに兵装を装着し、作業の手順を繰り返すうち、胸の奥がじわりと熱くなった。
TimberWolfのコックピットに姿が消える彼を見上げながら、彼女の存在がこの広い箱の中でどんな意味を持っているのか、時々わからなくなっていた。
KitFoxは整備中で、トヤーは彼について行くことはできなかった。何もできない無力さと、ここに残された者だけが知る静けさ。
ドルジが戦いに行くのを、彼女は黙って見送った。ここから先はもう彼を止めることも、助けることもできない。ただ、巨大な緑の影が格納庫のゲートを抜け、雨と泥の中へ駆け出すのを見つめているしかなかった。
雨に滲む緑の影が見えなくなると、静寂が広がる。
格納庫の金属扉を閉めるとき、彼女は自分の小さな手が震えているのに気づく。自身の胸を両手で抱きしめるようにして、ひとつ深呼吸をした。誰にも見せたことのない、弱い彼女。
空っぽの格納庫で、トヤーはひとりきりで、誰にも見られない涙をこぼしそうになる。
ズハイのブティックで店員にかけられた言葉を思い出す。
“美しい”と誰かに言われても、その意味がわからない。ただ、TimberWolfの去ったあとの広い闇のなかで、トヤーはもう少し自分の容姿に気を遣おうと思った。
TimberWolfの残した油の匂いが、まだ鼻の奥に残っている。
湿った床に反射した照明が、今はやけにまぶしかった。
誰もいない格納庫の闇に、彼女は自分の声を閉じ込めていた。
管制塔に行く前に顔を洗って、シャワーも浴びて、服も変えよう。