※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.27_08

Ship Yard Area , Maintenance hangar

Alyina System, Noida

Alyina Mercantile League

8 February 3152

 

 船の昇降床が上がり、ベイの装甲シャッターが閉まる。

 時間稼ぎにできることはこれくらい。

 ペトロフは機関室に、格納庫の確認にゾリグとナラン、マイが向かい、船内の装備の確認にリーゼが向かった。

 操縦室はアリマの担当。

 操作盤のコンソールを叩いて、船の状況を調べる。

 他はほとんどノータッチだった割に操縦系だけにはしっかりとパスフレーズでロックがかかっていた。

 

 32桁の文字列で構成されていた鍵を総当たりして、強引に突破した瞬間に、敵が動く。

 解析したパスフレーズどころか、パスフレーズの構成ルールまで変更されてしまう。

 相手の存在を察知して、脳を焼き払った時には全てが遅い。

 そうして、全ての隔壁が閉鎖され、アリマ達は船内で物理的に分断された。

 

 通信機の向こうでナランが嘆息する。

『隔壁を開けられるような装備を、我々は持ち込んでいません。』

『運が悪い。せめてメックのコクピットまで辿り着ければ...』

 ベイとベイの間を移動中だったマイは、左舷と右舷を繋ぐ通路で閉じ込められていた。

『施設の警備が重セキュリティチームを呼び出している。時間はないぞ?』

 建物は既に封鎖が始まっている。

 脱出の手段は時間が経てば経つほどなくなっていく。

 

 格納庫内では赤い回転灯が点き、サイレンが鳴り始めた。

 相手の電脳技術者を焼いたのが幸いしたのか、アリマ達は強く警戒をされている。

 トーチを持った制圧部隊に突入されるのが先か、それとも再びアリマが船の支配権を得るのが先か。

 36桁から1桁までの文字列を総当たりする時間を考えると、他にも手が必要だった。

 

「力技だけとは、無教養ざます。」

 音もなく忍び寄った教養が突然に、油断だらけのアリマを叱咤する。

 心臓が止まりそうになるほど驚く彼女を脇目に、リーザは副操縦席のシートに優雅に腰をかけた。

「こっちのコンソールでも試させてもらうざます。」

「普通に考えなさいよ、手打ちでどうにかなるような文字列じゃないわよ。」 

 人差し指で、一文字ずつパネルに文字を打ち込みはじめた女をアリマは心の底からバカにする。

 彼女がまず試した文字列はaaaや123といった単純な文字列だった。

 続いて、SeafoxやAlyinaなど意味のある文字列が打ち込まれ始める。

 当然、そんな単語は全てエラーが返された。

 

「相手の技術者は、女ざますか?殿方ざますか?」 

 しばらく失敗し続けた彼女は、アリマが脳を焼いた人間の性別を問う。

「男よ。別になんの特徴もない普通の人間よ。」

 28桁目の総当たりを始めながら、アリマは怒りに満ちた声で答えた。

 既に36桁のランダム文字列という彼女の想定は崩れている。

 わずかに考え込むと、リーザは再びいくつかの単語を打ち込み始めた。

 アリマは彼女の優雅な動きに見合わない、卑猥な単語の数々に鼻を鳴らす。

 表情を表に出さない、四角い眼鏡の知的な女が、猥雑な単語をひたすら打鍵するという光景はとてもニッチな需要がありそうだった。

 そんな、彼女の空想はリーザの前に現れた「ようこそ」の画面に破られる。

 

――最っ低ッ!信じられない!

 

 アリマは心の中で、死んだ男を思いつく限りの言葉で罵った。

「パスワードはB、o、o、b、s、ざます。教養のない人間の考えることなんて、この程度ざます。」

 続いていた26桁目の総当たりを止めて、アリマは言葉にならない怒声を噴き上げる。

 この世の全てを呪いたい衝動に襲われながら、自分の意識を船の兵装に繋ぐ。

「あんたが、なんで商人連合に嫌われてるのかはよくわかったけど、あたしはあんたを好きになったわ。」

 両手で顔を覆いながら、アリマは今日の最高の功労者を称えた。

 羞恥の心が光の筋になって、格納庫の天井と壁を焼き始める。

 これ以上の人死にを出すわけにはいかないので、威嚇射撃だけだ。

 

 コクピットの外の様子を覗きながら、リーザは小さな微笑みだけを浮かべる。

「無駄口叩いてないで、発進するざます。」

「エンジン良好、叩いてっ。」

 コクピットの中央にあるボタンが、教養高く叩かれると船が息を吹き返した。

 オーロラ級降下船の船体が宙に浮かび、格納庫の中が青白い噴射炎で照らされる。

 着陸脚が金属のこすれる音を立てて、床を離れた。

「スタビライザーは正常ざます。各ベイの気密もヨシざます。進路もクリアーで、いつでも脱出可能ざます。」

「アンタ、宇宙船の操作どこかでやったの?」

 流れるような点検作業に、アリマは無意味な質問を投げかける。

「ないざます。ただ、教養があれば、このくらいは見れば分かるものざます。」

「世の中、経験があってすら動けないヤツっていっぱいいるのよ。ゲートオープン、商人連合が私たちの動きに気がついたわ。」

 教養の万能さ加減に身を震わせながら、アリマは施設の設備にまで侵入を果たす。

 日がほとんど沈んでいたが、空はまだギリギリ明るかった。

 船を前に進めて、格納庫から頭を出す。

「体が動かないのは、ただ教養が不足しているだけざます。エネルギー供給量安定、3分で推力最大まで上げていくざます。」

「せっかくやる気になってるとこ悪いんだけど、さすがに未経験で操縦桿を握るのはやめてもらっていい。」

 両手にしっかりと操縦桿を握ったリーザの腕を掴んで、アリマは首を振る。

 やらせてみれば、リーザならばできてしまいそうな予感はあったが、ここまで来て、そんな博打を打つ必要はない。

 固定された操縦桿を動かそうとする彼女に、アリマは静かに首を振って見せた。

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