Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Valley
Unknown System
Jade Falcon
28 June 3144
「オドンは!?」
『使えるメックが格納庫にあるはず、と言って6番格納庫に向かったわ。』
ウーリンの問いにサラが答えた。
オドンのChargerCが重整備中に海賊の襲撃を受けるとは、本当に運が悪い。
偵察機とは言え、重量級のメックが戦列に有ればこんなに惨めな戦いをする必要は無かったはずだった。
――しかし、まだ希望はある。
どんな状況でも、姉妹の末妹は活路を見出してきた。
オドンが動き続けている限り、彼女達が迎える結末が、完全なる敗北であるはずはない。
姉妹達を鼓舞しながら、ウーリンは時に前にすら進んだ。
今、彼女が駈っているShadowHawkIICも本来の愛機ではない。
格納庫で全ての武装が取り除かれている愛機の代わりに、予備機に乗り込む。
パイロットの登録の書き換えをしているうちに、味方の戦線はすっかり崩れてしまっていた。
『前衛のKitFoxは、もう全部やられた。』
しかし、13機いた味方のメックは、既に8機が動かない。
残りの5機では、もはや数的な不利を覆せる戦況では無かった。
海賊達は撃破したメックに、容赦無く追撃を浴びせる。
キャノピーやハッチをこじ開けて、動く動かないに関わらず、機関銃を撃ち込み、炎を吹き付けて中を焼いた。
パイロットが脱出に成功すれば、追いかけて、そのまま足で踏みつけもする。
死にかけていた姉妹達の助けを求める言葉を聞きながら、悲鳴を耳にしながら、ウーリン達は後退を重ねるしかない。
『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ、僕の腕がぁっ!』
今度はボロルの悲鳴。
彼の方を見てみれば、流れ弾でも被弾したのか、彼のCougarの二の腕から先が捥げて無くなっていた。
その先に付いていたはずの粒子投影砲は、すぐ足元の地面にぼとりと落ちている。
姉妹達の肌を這う緑色のインプラントは、メックとパイロットの神経系を繋いでいる。
まるで自分の手足のように機体を操れる代わりに、メックがダメージを受ければ、パイロットもその痛みを感じた。
「ボロン、落ち着け!」
ウーリンは彼の叫びに負けないような大声で、なんとか平静を取り戻させようとボロンに呼びかける。
だが、抵抗者の守りが崩れたのを察した海賊達は、ジャンプジェットを吹かして、彼女達の居場所に飛び込んできた。
宙から舞い降りた略奪者は、迷うことすらせずに手負いのボロンにレーザーとミサイルを浴びせる。
どこかから、聞くものの魂を震えさせるような悲鳴が聞こえた。
乱戦になった戦場で、その声の主を探している余裕はない。
ウーリンはとにかく、数を減らした姉妹達と共に、相手を倒すことに専念した。
飛び込んできたVapor Eagleは珍しい氏族メックではない。100年以上昔から存在する古いメックだ。
後方から、海賊達を支援するGlassSpiderも氏族が持つ、古い戦闘用のメック。
間違いなく、この海賊達はどこかの氏族からの支援を受けている。
ウーリンはそう直感しながら、操縦桿のトリガーを引き続けた。
展開されているメックの数が15機というのも、不審な数字に思えてならない。
機種の一致しない、二線級のメックがわらわらと押し寄せてくる。
いつの間にか、味方はサラのSummonerと自分しかいなくなっていた。
「サラ、推力が残っているなら離脱しろ。二線級のShadowHawkIICよりは逃げ延びれるはずだ。」
『無理よ、放熱板が破損してるの。焼け死んでしまうわ。』
ウーリンには、サラが何かを隠していることがわかる。だからと言って、わざわざそれを指摘している暇はなかった。
チャネルを操作して、今度は末の妹を呼び出す。
「オドン、どこにいる?」
もう、こっちには来るな。彼女にはそう言うつもりだった。
しかし、無線からは応答がない。
先ほど聞こえた、断末魔を思わせる叫び声を思い出す。
あれがオドンの声だとしたら、もう彼女達に望みはない。
頭の中で誰かが、ここにサラを置いて自分だけで逃げてしまえ。と囁いた。
オドンだって、この状況ならば後退を選ぶはず。それほどに、戦況は悪かった。
――どうか、そうであってくれ。
ウーリンは首を振って、サラを守るようにそこに立ち塞がった。
サラのSummonerの肩に付いた対ミサイルシステムが砲身は既に限界を訴えている。
――敵の次の斉射には、耐えられない。
圧倒的な物量に、ウーリン達はまさに押し潰されようとしていた。
悪態を吐こうと口を開いたその時に、視界の一番奥にいたGlassSpiderに異変が起きた。
特徴的な円盤状の頭部が上から押しつぶされて、ひしゃげてへし折れる。60tの図体がなすすべもなく、平坦な屑鉄に変わっていく様子に唖然とする。
GlassSpiderに完全なる破壊をもたらした、ずんぐりとした胴体の翡翠色の塊は、両肩の発射機から更に多くの破壊を撒き散らかす。
両脚の先に凶悪な爪を備えたTurkinaが金属の軋む音を立ててそこに姿を現した。
ウーリン達を狙っていた全てのミサイルランチャーが突如降臨した破壊者に向きなおる。
一直線に描かれた無数の白煙は、途中で巨獣の気迫に負けたかのように迷走を始め、やがて地に落ちた。
お礼とばかりにTurkinaからも、一斉に光条とミサイルの発射炎が閃く。
『アッハッハッハハ、アハハッハハッアハハ...』
息継ぎをほとんど挟まない、無限に続く狂った笑い声がメックの聴覚センサーを通して聞こえた。
巨大な重量の機体が前進を再開すれば、海賊達のメックは、まるで塵芥であったかのように扱われる。
その挙動の一部に、ウーリンは覚えがあった。
低い姿勢からの当て身のような突撃。真正面から繰り出されるその猛撃を正面から受けて、メックが次々と大地に膝をつく。
背後からの恐怖に耐えられず、VaporEagleが遂に背面を振り返る。
その隙を逃すウーリンでは無かった。
滅茶苦茶な破壊の後に、Turkinaは更なる獲物を求めて飛び去ってしまう。
後に残されたウーリンはShadowHawkIICから脱出すると、動きを止めた僚機に飛び乗ってコクピットを開く。
右腕と下半身を喪ったサラが、か細い息を立てて、どうにか座席のベルトだけでその位置を固定していた。
普通の止血では流血を止められず、自ら傷口を焼いた痕が身体を黒く染めている。
「ごめんなさいお姉さま。オドンが狂ったのは私のせい...」
肺から息が抜けていく音を立てながら、ほとんど色を失った目を動かして、サラはウーリンに向けて謝った。
「手順を飛ばして、全ての神経回路を同時に接続させたの。」
メックの起動を優先して、慣らしをせずにパイロットの感覚を一気に塗り替える。
EIインプラントの扱いに慣れない人間がそんなことをすれば、自我が吹き飛ぶ。
サラがやったことは、オドンを生贄に捧げるような行為だ。
「私が憎いでしょう、ウーリン。どうせ私は助からないわ。だからいいよ。遠慮なくあなたの手で私の生命を奪って...。」
もはや、彼女は音が聞こえている様子がない。
だから、ウーリンはできる限り彼女に顔を近づけて、首を振った。
「じゃあ、お願い。お別れのキスをして...。」
涙に濡れる顔で、彼女は最期の望みを口ずさむ。
ウーリンは彼女の望み通りに舌を使う。
サラの舌が、何も応えなくなるまで吸って、絡めて、撫で続けた。
やがて、3人目の妹は吐息も鼓動も全ての動きを止めてしまう。
いつの間にか、耳の奥に響いていたあの笑い声も消えていた。
――私だけが残ってしまった。
12年、人生を共にした兄弟姉妹で、身体の形を留めて息を引き取った人間はいない。
顔が残っただけでもサラは幸せな死に方をした。
自分はどのように死ぬのだろう。
そう考えると、涙が溢れた。
こんな感情は無意味だと、訓練上では教わっていたのに。
今はその無意味にすら縋りたかった。