Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump Control tower
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
17 March 3151
罠だとわかっていたはずだ。
TimberWolf出撃の報告はコボルの心臓を止めた。
その報告に来たトヤーはコボルにそれをすぐに伝えなかった。
宇宙で行われている海賊退治。そのときコボルは管制塔でこの推移を見守っていた。
気圏戦闘機の星隊の海賊退治は大勝利だった。
作戦は成功し、コルベット1、降下艇3が宇宙の藻屑になった。ここ数ヶ月、ツォンシャンを悩ませていた海賊は最早戦力を残していない。大戦果だ。
後日、降下艇の残骸を漁りに行けば、大儲けだ。ジャンクだけでも相当な稼ぎになる。しばらくは基地の運営資金に悩まずに済む。コボルの悩みが一つ消えるはずだった。
しかし、トヤーの知らせはコボルの勝利の余韻を一瞬で吹き飛ばした。
トヤーは、報告を遅らせた。彼の手が空くのを待ったと言われた。
……嘘だ、とコボルは思った。
報告を遅らせたのは、コボルに彼を止める時間を与えないためだ。
トヤーは、意図的にそうした。
それを問いただす意味がないことは、彼女の眼を見ればわかった。
彼女は確かな意思を持っていた。
また、ドルジはまた忠臣を増やした。
誘拐まがいの手段で攫ってきた人間だけじゃない。基地の人間も彼に影響を与え始めている。
どうやったら、そう簡単に人を口説き落とせるのかコボルにはわからなかった。
ドルジのTimberWolfはもう戦域に入っている。
戦場は泥沼だ。
敵が幾度も身を沈めてきたあの泥濘が、今度はTimberWolfの脚を掴み、ドルジの最大の武器を奪う。
それでもドルジなら、ひょっとしたら戦況を制して帰って来るかもしれない。
勝ちはせずとも、TimberWolfと共に帰還するかもしれない。
コボルの祈りにも似た仮定は、警報に潰された。
TimberWolfの核融合エンジンが被弾した警報だ。
メック同士が撃ち合うにはまだ早い。
あの土地は木が多く、地形も起伏が多い。まだお互いに姿を見ることすら叶わないはずだ。
基地の対空レーダーに所属不明の機影が映っている。
ドルジは戦闘機か爆撃機の対地攻撃に晒されたに違いない。
前回もボルドがそれで撤退に追い込まれた。
コボルには、もう動かせる手駒がなかった。
今さら救援に出せる戦力も、手段も、何も。
赤く光る警告ランプが、管制室の壁を染め続けていた。
時間だけが過ぎた。手は動かない。命令を下す声も出ない。
コボルはその光の中で、ただ、何も掴めないまま考え続けていた。