Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Camp Jaipur , Rounge
Alyina System, Noida
Alyina Mercantile League
12 February 3152
ナランがAurora級降下船の操舵に専念をするならば、彼の使っていたVisigothは再び乗り手を失う。
この機体を予備機として扱うべきか、それとも他の機体を予備とするべきか。
ドルマーも交えて、ナランとゾリグ3人で機体の運用について意見を交えていた。
予定外なことに、今や機体の数よりもパイロットの数の方が少ない。
4月にツェレンの出産が終わり、彼女が空に戻れば、この頭数の不足は解消する。
それまでは、少ない数のパイロットでなんとかしていく他ない。
少し寂しそうな顔をしながら、ドルマーはタブを胸に抱えるとまとめた意見の報告のためツェレンの元へと向かった。
姉の元に行く彼女は、姉が腹を大きくさせて出産を迎えようとしていることに未だに戸惑いを覚えている。
自然な出産を良しとしてこなかった氏族の教えから、未だに離れられないのだ。
二人残された会議室で、補給物資に関わるいくつかのやり取りを交えるとお互いに話題は無くなる。
トゥルーボーンの戦士しかいない今の飛行隊では、余計な世間話は発生しない。
ツェレンが輪の中にいた頃は、彼女がまるで中心領域の戦士のように気を配っていた。
世間話や雑談の必要性は、ゾリグにはわからない。
ただ、それがないと何かが欠けているような、不思議な感情を感じる。
久しぶりに、ゾリグはツェレンの顔を見に行ってもいいような気分になっていた。
彼が解散しようと言いかけたところで、相棒がそれを止める。
「ゾリグ、私から一つ、お伺いしても良いですか?」
ゾリグは、浮かせた腰を再び椅子に戻した。
ナランはあまり冗談を言わない。
氏族の人間らしく、冗長な言葉を使わずに、彼は常に直球の言葉を送り込んで来た。
彼の言葉で、聞く側が勘違いをする余地は、ほとんどない。
「オーロラ級を強奪した作戦以来、私は今迄にない昂りを覚えています。」
「俺たちは、後ろを歩いてただけだったけどな。」
普段、あまり感情を見せない彼の荒い鼻息に戸惑いながら、ゾリグは皮肉を返した。
しかし、それにナランは首を振る。
「いえ、作戦にではありません。」
短い否定の後に、彼は一度大きな息を吸って吐く。
もう一度、大きな息を吸ってから、彼はついに本題に入る。
「私は、リーザの踵に足の甲を撃ち抜かれた警備員が、羨ましくて仕方がないのです。」
顎を突き出し、その光景を思い出すかのように、ナランの視線が天井を撫でた。
予想外の内容に、ゾリグは小さく首を傾げる。
「あれを見て以来、私はあの鋭い先端が靴の革を破る光景が忘れられないのです。」
言葉が足らないと思ったのか、ナランは言葉を続けた。
ゾリグはいよいよ困惑する。
氏族の戦士達は、今までに幾千幾万人もの中心領域の人間を虐げてきた。
鎮圧任務や侵略任務の経験のないゾリグですら、命乞いをする民衆を焼き払った経験がある。
一方的な力の行使に興奮や愉悦を感じる氏族の戦士がいることは理解していた。
しかし、ナランの望みはそれとは違った。彼の願望は踏みしだく側のそれではない。
「ゾリグ、わかりますか?私は、彼女に踏まれたいのです。」
ようやく、彼が自分の欲望を言葉にする。
瞬きの止まった彼の眼球は、彼が真剣に思い詰めている証だった。
常にドライな側面を見せてきたナランの見せるウェットな感情。
「これが色恋というものなのか、私にはわかりません。」
その困惑の混じる表情に、ゾリグは頷きを返すことしかできない。
その強烈さは彼のトヤーへの想いとは異なるものだったが、どこか似通ってもいる。
「...悪ぃ、俺にもわかんねーわ。」
ゾリグは気が付いていた。
もう機能しなくなっていたはずのナランの男性は、リーザへの想いで完全に力を取り戻している。
パイロットスーツのズボンを突き破らん勢いで、それは力の打ち付け処を探していた。
「シタ先生に診てもらったりしたか?」
「彼女は解決の手段を知っているそうですが、これは男性の間で解決する方が良いそうです。」
ゾリグの考えるようなことは、ナランならば既に手を打っていて当然ではある。
だが、女医の回答の意味するところは分からない。
「男の間って、どういうことだ?」
「わかりません。ですが、だからこそゾリグに相談をしたのです。」
2人は互いに顔を合わせると、女医の言葉の謎に頭を悩ませた。