Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Camp Jaipur , Rounge
Alyina System, Noida
Alyina Mercantile League
12 February 3152
どんなに不可解であっても、苛立ちの源であっても、彼女はヌルの妹。
それはつまり、トヤーはマイの妹でもあるということだった。
その彼女が大声で泣き喚く声を聞いて、マイは勢いに任せて、声の源の部屋の扉を蹴り開ける。
「オドンっ!何があった!」
怒鳴るような声を出しながら、部屋の中に踊り込む。
しかし、彼女の視線の先で、引き千切れた蝶番のネジの一本がトヤーの小さな背格好に向けて飛んでいく。
――そんなバカな。
どこかの壁で跳ねることもなく、そのネジはまるで狙ったかのように真っ直ぐな軌道を描いて少女の後頭部を直撃した。
そもそも、扉は手で開ければ良かった。そんな後悔がマイの頭を過ぎる。
言い訳を探すマイの前では、トヤーの泣き喚く声が更に激しさを増していた。
「ドルジィ、ウーリンねぇ、マイもゾリグも...、みんながあたしをイジメるよぅ...!」
「ぐ...ぬっ...。」
マイは2人の名前が耳に入ると、言葉を詰まらせた。
絶対の主上、永遠の伴侶。そのどちらにも、マイはこの醜態を知られたくはない。
マイは膝を曲げて、視線をトヤーの高さに合わせる。
そして、宥めるように彼女に語りかけた。
「なぜ、泣いている?良いか、私はお前を助けに来たんだ。悪いのはゾリグなのだな?」
「待て、それはトヤーの勘違いだ。マイ、お前でも良いから話を聞いてくれ。」
全ての責任を擦り付けられそうになったゾリグが慌てて抵抗する。
ネジのことを話題にするようであれば、彼を殴って黙らせることすら止む無しと考えていた。
だが、ゾリグはそもそも、マイが全ての原因を彼に押し付けようとしていることにすら気が付いている様子がない。
彼がそこまで慌てている理由を、トヤーは泣き喚きながら口にする。
「ゾリグがぁ、あたしというものがありながら、ほったらかしてナランとスケベしてたぁ...。」
「なんっ...、ぐ...ぬ...ぬっ...。」
異性のパートナーの寵愛を受ける身でありながら、更に同性のパートナーとも関係を持つ。
それはドルジの精を受けながら、ヌルとも身を重ねているマイにも同じことが言える。
それにドルジが他の女性とも身を重ねてることに、少なからず嫉妬の気持ちを抱いているマイにはトヤーの悲しみが良く理解できた。
「だから、それは勘違いなんだ。そうだな、マイ。お前にも無関係ではない話だ。聞いてくれ。」
言葉を窮したマイにとって、ゾリグの弁明は都合の良い逃げ道。
彼女が聞く姿勢を見せると、彼も構えを解く。
一旦、泣き止む様子のないトヤーからは目を逸らした。
「つまりナランは、リーゼに虐げられた警備の醜態に興奮して、インポから立ち直った、と。」
「あの、言い方...」
「そして、自分も同じようにされたいと。とんだ性癖だな。」
恐縮でもするかのように、不満そうな声を漏らす大男を見上げながら、それを嘲笑でもするかのようにマイは言い放つ。
少し首を傾けて、彼の股の間を確かめるが彼女の言葉に反応する様子はない。
「そんな俗物に、我々の舵を任せられるとでも?」
固い軍靴の踵でナランの爪先を抉るように踏みつける。
強い痛みを感じていないはずはないのに、彼はマイの睨みつけに無表情を返した。
あまりの彼の動じなさに、マイは溜息をつきながら脚の位置を戻す。
「...これはこれで腹立たしいな。」
「...申し訳ありません。」
靴についた汚れを払うことすらせずに、ナランは彼女のいらだちに謝意を示した。
「リーゼでないと、無反応ということか...。」
ゾリグとトヤーは不思議そうに男の表情を見上げる。
既に泣き止んでいたトヤーの手は、いつの間にかゾリグの手を握っていた。
ナランは頷くと、ゾリグの言葉を肯定する。
「はい。背丈のせいかも、と思っていましたが、マイさんのお陰ではっきりとわかりました。」
いつもと変わらない表情の内からは、戸惑いが消えて、代わりに強い意思が溢れていた。
「私にとって、リーゼさんに代わる人はいないようです」