Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Camp Jaipur , Reception Room
Alyina System, Noida
Alyina Mercantile League
14 February 3152
どこから手に入れてきたのか、マリオの用意した精密な造りの機械の腕は、よく磨かれた金属の5本の指を備えている。
どこの神経の信号を読み取っているのか、彼はエノリにこの腕の機構の秘密を全く話してくれない。
しかし、それはまるで元から彼女の腕であったかのように、自在に意図した通りに動いた。
もし、エノリの斬り落とされた部位が手首から先だけではなく、例えば肩から先であったのなら、彼女の腕は今よりももっと動いたに違いない。
そんな余計な心配をするほどに、その手は機械に置き換わる前よりも、主の感情を豊かに表現して見せた。
胡散臭い表情を浮かべている医師が、白衣を羽織り直すのを待ってから、エノリは彼に呼びかける。
「あなたは本当に腕が良いのね。」
「そうかい?SeaFoxの技術者に教わったのさ。」
医師はエノリが口にした言葉の称賛の部分だけを受け取り、皮肉だけがエノリに返された。
彼が口にした言葉に、彼女は驚く。
氏族が中心領域に技術や情報を提供するときは、必ず何かがダウングレードされている。
しかし、彼の義肢を扱う氏族の技術は、ほとんどそのままの形だ。
エノリはマリオの持つ、コネやルートに興味を引かれる。
それは彼女の戦士というよりは、密偵の勘だった。
だが、彼女の鋭く光った目には、すぐに諦めの感情が宿る。
どんなに優れた二重の螺旋を与えられて産まれても、産まれて20数年のエノリでは、彼との経験の差を埋められない。
到底、勝ち目のない戦いを前に、彼女はただ口を閉ざした。
己の未熟がどのようなの結果をもたらすか、彼女は身をもって知っている。
エノリは、短くため息をついて、怪我人らしくすることにした。
まずは自分の身体についての話を、主治医に聞くことにする。
「私は、再びメックに乗れるのかしら?」
尋ねたいことは一つではなかった。
ただ、自分がまだ戦えるのか?と一番最初に彼に問うた自分に驚く。
「ダメだと言っても、キミはきっとそうするだろう。」
マリオの彼女への答えは、ほとんど預言のようだった。
それを聞いたエノリのため息は深くなる。
「君たちは皆、メックに乗るために調整された遺伝子を持っている。それを無理に変えることは難しい。」
だから、キミはまず、その質問をしてしまったのだ。とすら言われてしまう。
マリオは揃えた右の手の人差し指と中指で親指を叩いて見せる。
「君は再び箸を握れるか?と訊こうとは思わなかったはずだ。」
彼にまたも断定的に言われてしまい、エノリは項垂れた。
彼女は遺伝や生まれ、記憶の話が好きではない。
エノリは今までに、自分の交じりモノの血に感謝を覚えたことがなかった。
両方の長所を発揮することを期待されて生み出されたのに、現実には双方から疎まれている。
血名を手にしてもなお、JadeFalconの氏族から、彼女は主戦力として扱われない。
SeaFox氏族は、彼女を意のままに操るために、彼女の首元に小さな装置を埋め込んでいた。
そのインプラントは通信の他に、彼女の心を惑わし苦痛を与える機能までを有している。
同じ遺伝子を共有している程度のことでは、利用はすれど、彼らは彼女を信頼することはなかった。
――私はまだ、ヌルの隣にいていいのかしら?
目の前の銀色の皿の上に、まだ赤い血のこびり付いた装置が転がっている。
今までにこの呪いの装置が、通信以外の用途で使われたことはなかった。
エノリは、今までにSeaFox氏族からの指示に逆らったことがない。
信頼の経験の少ない彼女は、同じように人を信頼することにも不慣れだった。
だから、エノリは仲間の安全を第一には考えたことなどない。
彼女の恋人でありながら、ヌルの信頼に応えよう、と思ったことすらもなかった。
ただ、機械のように役割を演じて、彼女に与えられた使命を達する。
それが、仲間の安全を保障する唯一の手段だった。
その彼女の行動の根幹だった命令はもう、彼女には届かない。
エノリはこの瞬間に自由を手にしていた。
彼女はぶるりとその身を震わせる。
エノリは誰からの指示もないことが、まるで支えのない場所に立っているようで、たまらなく不安になった。