Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Camp Jaipur , Hanger
Alyina System, Noida
Alyina Mercantile League
16 February 3152
銀色に輝く、白金の輝き。
金色の台座に載った大小の金剛石。
空の青に透かしてみようと、シャロンが指先で輪の部分を摘まんで透かしてみれば、その輝きに曇りがないことがわかる。
どこかの山から掘り出し、人の手で彫り磨かれた、珍しい天然の石が小さなツメで固定されていた。
当然、安い買い物ではない。
しかし、頭の固いオーケはシャロンの諫めに耳を貸さずに、ニューデリーの宝石店で彼女が一番最初に手に取ったその指輪を買った。
「お前ぇ...2つ目以降は、値札を見てから手にしてたじゃんかよ。」
プライドを傷つけられたとでも言わんばかりの、彼の声をシャロンは思い返す。
素直に結ばれた2人だったならば、何も考えずに受け取れたのかもしれない。
しかし、彼を5年も待たせた彼女にはその輝きは少し、重かった。
「...いや、だって、気になっちゃったんだから仕方がないよな...。」
言い訳をするように、シャロンはその石を見上げたまま独りで呟く。
霊感や第六感のようなものとは無縁の彼女だったが、その石とは目にした瞬間に運命の繋がりのようなものを感じた。
2人で店の入り口をくぐった直後に感じた、その石が放つ輝きと視線は忘れようがない。
見惚れるたびに自分の魂を吸われてしまいそうなその輝きに、シャロンはすっかり魅了されていた。
「天然の石って、すげーんだな...。」
人の手で造られた石からは感じることのない、意思をその身に浴びて彼女はため息を溢すかのようにつぶやく。
装甲板やレーザーの発振に使うダイヤモンドと、目の前の澄みきった不純物の差に頭を巡らす。
顕微鏡で見ずともシャロンの目にはわかる。
この石の組成では、工業製品の部品としては粉にでもしないと使用はできない。
しかし、これはそんな用途に使っていいものではなかった。
シャロンの胸のポケットの中で、小さな機械が震える。
オーケから指輪を贈られてというもの、シャロンは1時間の昼の休憩時間を全て、それを眺めることで費やしていた。
小さな綿の詰まったポーチに指輪を収めると、シャロンはそれをさらに作業用のポーチの一つに収める。
こうしてそれを肌身離さずに持ち歩くことが、彼女とオーケが結ばれたことの証の一つだった。
腕の筋を伸ばしながら、作業場に足をむける。
私生活は完全に石と彼氏に呑まれていても、仕事は別。
流れるような金髪を紐でまとめて、帽子の中に収めながら短く息を吐く。
それだけで、彼女の意識は切り替わる。
「...あ、シャロン...。」
だが、作業場に戻ろうとする彼女の名を呼ぶ声に、シャロンは立ち止まった。
振り返ると、そこには彼女と入れ替えで休憩時間を迎えたペトロワがいる。
いつもの彼女から感じる小熊のような圧力がないことに、少し違和感を覚えた。
続く言葉がなかなか口から出ないペトロワの様子を見るとシャロンはすぐに胸のポケットから小さな通信機を引っ張り出す。
「...あ、レイフ?悪いんだけどさ、ちょっと戻るの遅れるわ~。別の作業やっといて~。」
一方的に相手に語り掛けて、すぐに通信機のチャネルを変える。
僅かに聞こえた抗議の声は聞かなかったことにした。
姿勢を変えて、脚への体重のかけ方を変える。
お次は仲間を集めなければならない。
「トヤー、緊急招集よ。...そっ、いつもの場所ね。」
短いやり取りだけで、必要なことを伝えきると次のチャネルに通信機を切り替えようとする。
しかし、シャロンは次の通話を始めることはなかった。
「あー、サッチーは呼ばない方がいいか...。」
「...はい。...今のサチコさんには、もっと深い思い悩みがあると思います。」
努めて軽い口調を保つシャロンの気遣いに、ペトロワは同意を示す。
シャロンは彼女のその様子を眺めて、違和感の正体の片鱗に気が付いた。
黄色い作業服の下の柔らかい肌の更に下に潜む、鋼のように鍛えられた筋肉の塊。
熊とすら形容される彼女の体躯は、普段ならばそれを崩そうなどと考えられないほどに強固な印象を与える。
その中でも、太々とした彼女の大腿は、今日は隙間をぴったりと閉じていた。
代わりに少し開いた脛から下が、彼女の普段の印象を全て壊している。
シャロンは彼女の悩みがどういう類のものなのかを察した。
とても個人的な話になりそうだったので、シャロンは場所を予定と変えることを思いつく。
しかし、そこに辿り着くためには、もう一人、協力者が必要だった。