Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Hidden SpacePort
Alyina System, Sela Pass
Alyina Mercantile League
16 February 3152
レンズの中央で赤く光る光点。
その先で、小さくうごく胡麻のような黒い点の動きを目で追う。
生まれたばかりの海老の幼生体のような粒の動きの先に焦点を定める。
1マイル先で赤黒い小さな花が咲いたのを見届けると、赤い点の指し示す先を次の黒い点に移す。
再び引き金を引けば、次の花弁が華開く。
ゾリグは全く同じ動作を独りで幾度か繰り返した。
彼が狙う先は、限られている。
雑兵に指示を出す指揮官、機銃座の機銃、重火器を担いだ特技兵。
節約をしなければ、16発の携行砲弾はすぐに尽きてしまう。
光学式の狙撃銃ならば、同じ重量でもっと多くの回数の射撃を行える。
しかし、光学式の狙撃銃は実弾よりも射程が短く、荒天に弱かった。
パワーパックが凍結のリスクを承知しているからこそ、ボルド達もエレメンタルアーマーの武装にはコイルガンを選択している。
ゾリグの頭上をローターの回転音が過ぎ去った。
円筒型の容器から、ガスの噴き出す音を鳴らして、数条の煙の線が要塞の壁に直線を描く。
ゾリグはそれを見ると長銃を構えるのを止める。
荒れた大地に吹き付ける気流の下では弾丸は本来の威力を発揮しない。
それに何よりも、ゾリグが狙うはずの先は無誘導弾の炸裂で、瓦礫の山が出来上がっていた。
南北の棟を繋ぐ連絡通路を破断された敵が、襲撃者に向けて応戦しようと窓越しに手元の武器を突き出している。
しかし、それは砲身の先から蠅の羽音のような音を立てる兵装で灰色の壁ごと撃ち抜かれて潰えた。
ゾリグは弾倉の中の残弾を確かめると、ライフルを担ぎ、地面の上に積み上げていた荷物と共に移動を始める。
彼の手元に残された弾の数は6発。
それを撃ち尽くす前に、彼の仕事は無くなりそうだった。
白い息を吐き出しながら、ゾリグは腕に巻いた通信機に目をやる。
――2羽ノ告死天使ガ棺ヲ引イテ黙示ノ時ヲ告ゲント馳セ参ズ。
シフが彼に寄こした暗号文はデコードしても、符牒のような言葉になった。
それが、増援の知らせであるとゾリグが理解したのは、弾倉を一つ空にして投げ捨てた後。
彼らが到来してからだった。
どこか荒い、しかし正確な、踊るような軌道を描く戦闘ヘリに警告を発する。
「バヤル、敵は誘導弾筒を持っている。」
ゾリグの声に応えるかのように、その機体は急上昇からのバレルロールで噴進弾の一発を躱して見せた。
アリマとバヤルの2機の役目は驚異の排除と、注目を集めること。
本来その機体が負うべき役割と、少し異なる任務だったが、彼は十分にその役割を果たしていた。
次の配置に付いたゾリグは銃を構え直すとスコープを覗き込む。
そして、目的のものを見つけた。
「こちらゾリグ、目標を視界に入れた...。SDR-8X、翅付きのSpiderだ...。」
視界の中央から、2足で立つ巨兵を外して、周囲の様子を伺う。
音は聞こえないので、周囲の動きでしか状況を知ることができない。
短い時間でも、ゾリグは必要な情報を十分に手に入れることができた。
足元から離れていく人達、舞い上がる粉塵。
「...既に起動している。...繰り返す、メックは既に起動している。」
レバーを引いて、ライフルのチャンバーに弾を送り込む。
指の力を引き金に加えて、轟音を空に響かせる。
まだ、動きを見せないメックの頭部と肩の付け根の間から伸びていた金属の線がはじけ飛ぶ。
続けて、もう一射。
今度は後頭部と背面装甲の間から生える金属線。
どれが、どの機能を担っているのかはゾリグにはわからない。
しかし、これだけでもあのメックは大幅に通信能力を失ったはずだった。
Spiderの襲来を警戒したアリマとバヤルのヘリが空中を後退する。
ゾリグも再びライフルを背負って、戦場を移動する。
しかし、地上にいるゾリグ達に退路はない。
なんの前触れもなく、基地から聞こえていた全ての戦闘音が止む。
耳に繋いだイヤーセットの向こうは静かで、銃声や絶望の声は聞こえない。
それなのに、基地のどこかで息を潜める猛禽たちの気配だけが、どこからか滲みだしている。
それに気圧されているのか、起動しているはずのメックは、脚を前に一歩踏み出すことをためらっているようにすら見えた。
不気味な空気が漂う中、ゾリグはこの沈黙の間に、とにかく積もった雪の上を前に進むことにした。