Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Hidden SpacePort
Alyina System, Sela Pass
Alyina Mercantile League
16 February 3152
『隊長、相手はたかが軽量級だろ?』
『仕留めましょう。』
「ダメです、...距離が離れすぎています。」
逸る若い声の少年たちを制止しながら、ボルドは限りなく灰色に近い青の表面色をした巨人の様子を伺う。
壁と天井の崩れた広い格納庫の中央に立つSpiderは、腰を左右に回して上半身のセンサーで周囲を警戒していた。
胴部に備え付けられた対歩兵用の短距離レーザー砲は既に光を灯していて、その手には巨大な金属の剣が握られている。
彼らが纏う翡翠に輝く装甲はその形状からヒキガエルと渾名されていた。
人工筋肉と自己修復装甲に覆われた鎧は、少数の人間が対メック戦闘を行い、生還するために氏族が開発され、長く使われている。
いかに対メック戦闘を想定した装備であるとはいえ、巨大な質量で殴りつけられる想定はしていない。
一瞬で距離を詰めなければ、何人かが肉塊に変わるのは明らかだった。
だから、敵の音声センサーにひっかかるリスクを冒す覚悟で、ボルドは手ぶりも交えて彼らが飛び出さないように戒める。
本来ならば、この布陣になる前に、メックのパイロットも守備の兵士も排除されている目算だった。
しかし、練度の不足からか、彼の部下は敵のセンサーに検知され、警報が作動させてしまう。
ここで勇んで、本来はまだ訓練生の年頃の少年兵を、ここで徒に消費するわけにはいかなかった。
『データを更新するっす。』
基地の周りに聳える背の高い針葉樹を盾にして、情報収集を続けていたシフの無機質な声がして、若い兵士たちの気持ちがメックから逸れる。
Spiderの攻撃範囲や、移動可能な範囲が現実の視界の上に描画された。
赤で示されたその広大な範囲を見て、若い5人の兵士は冷静さを取り戻していく。
ジャンプジェットを一度吹かすだけで、翅付きの軽メックは彼らの手の届かない空に逃げ、レーザーで彼らを一方的に焼くことすらできた。
計画通りではないにも関わらず、彼らが相手を押し込んでいる要因は、決して彼らが勇猛だったからではない。
単純な戦力比だけで見れば、相手の方がまだ有利だった。
「敵が攻めてこないのは、こちらの人数が把握できていないからです。
我々は、今はAnhurVTOLの支援を受けて、目標の視界からほとんど隠されています。」
ボルドは若者たちに向けて自分のアーマーのこめかみに近い部分を叩いて見せる。
電子装備を積んだ輸送機は、1分隊のバトルアーマーを降ろした後も戦場に留まって彼らをサポートし続けていた。
敵が基地に仮設した目と耳は真っ先に破壊されている。
火力で劣るボルド達が、攻め手でいられる唯一の要因は視界の優位。
敵がわざわざセンサーを機体の向きごと、右に左にと動かしているのは、その有効範囲が著しく制限されている証左だった。
一方、電子支援を受けているボルド達は比較的安全に相手の位置や状態を捕捉しながら、周囲の安全を固めている。
だが、徐々に状況が悪化しても、敵のメックは動きを見せない。
この状況は、長くは持続しないからだ。
AnhurVTOLはその電子装備を使い続ける限り、大量の電力を消費する。
それは機体の滞空時間を常に大きく削り続けていた。
帰路のことを考慮するならば、この状況は長くてもあと1時間も持たない。
時間を稼げば稼ぐほどに、優位は敵の方に傾く。
相手はどこかにいるであろう味方の救援を、わざわざ待つ必要すらない。
メックのパイロットが、雇われの傭兵ならばなおさら彼が周囲の味方の生死を気にするはずもなかった。
空を裂く銃弾の音が静寂を貫く。
それは、分厚い装甲に小さな金属が弾かれる音や、固い地面に転がり落ちていく音と交じり合って聞こえた。
『...こちらゾリグ。ダメだ、コクピットを狙えるような射点は建物外からでは確保できない。
挑発にものってくれねぇんじゃ、お手上げだ。』
狙撃手の諦めの混じった声にボルドは小さく唸った。
――傭兵め...。
ボルドはもう一度、彼の身を隠す遮蔽物ごしに敵の姿を見上げる。
機体の胸部に張り付けられた紋様は、氏族のものでも中心領域の国家のものでもない。
ボルド達が目当てにしていた、夜の梟と呼ばれる集団のものでもなさそうだった。
そうとなれば、相手は海賊か傭兵しかない。
単騎ならば、後者の可能性が高かった。
歯ぎしりをするボルドの耳に通信の回線が開く音が聞こえる。
チャンネルの主を確かめた瞬間に、彼は表情を引き締めた。
『...援護しろ...。』
短い指示。
その声の主は、ボルド達の潜んでいる場所とは広間の正反対の位置の影から姿を現わにする。
肩に隼の飾りのついた翡翠色の野戦服。
金属の装甲を纏うこともなければ、彼は上に羽織っていたはずの防寒着もどこかに捨てて来てしまったようだった。
彼はそのまま無言で、メックの視界の外から一直線にSpiderに向けて駆け始める。
「撃て、視界を部屋の南西に引きつけろ。」
ボルドは近くにいる味方に指示を出すと物陰から身を乗り出した。
アーマーにマウントされたガウスライフルを連射モードで、メックの頭部を目掛けて撃ち出す。
彼に続くようにして、他のバトルアーマーも同じように射撃を開始する。
少年たちのバトルアーマーも遅れて、メックへ砲口を向けて始めた。
この戦場には今、合計で15機の機動装甲が存在する。
シャトルでクリエフチから脱出した少年達の中で、アリイナの訓練場が持て余した問題児たちを彼らが引き取ったことで、5人の隊員が増えた。
新しい戦力にとって幸運だったことに、ここはアリイナ。
彼らの分のアーマーの調達は他の星系よりも遥かに容易だった。
ボルド達が使っているライフルもこの星系の商人から調達している。
短距離レーザーで応戦されても、ドルジがその目的を達するまで、ボルド達は一歩たりとも退くわけにはいかなかった。