Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Hidden SpacePort
Alyina System, Sela Pass
Alyina Mercantile League
16 February 3152
『...通信は回復しない?』
「しない。相手は逃げる様子もないし、手を出してくる様子もない。」
『...そう、我慢比べね。』
「もう一度聞くけど。逃げないのか?」
『...建物の外側は夜の雪山よ?遭難しに行くらいなら、ここで死んだ方が苦しまないわ。』
「...それも、そうだな。」
コクピットの天井からぶる下げた短距離の無線機。
Spiderのコクピットと外界を繋ぐ出入口はそこしかない。
機体に積まれている通信機は、使い物にならなくなっている。
通信用のアンテナはいつの間にか、一本の受信用のアンテナ以外は全て根元から壊れていた。
敵の戦闘ヘリが放ったロケット砲で、基地の通信機も壊れてしまっている。
一向に応答を返さない彼に、基地の守備隊からの声掛けはなくなった。
システムが立ち上がって、メックが動き出すころには銃声すら聞こえなくなる。
破孔の目立つ基地の外壁と、敵の歩兵に囲まれた緊張の中、彼はまるで独りぼっちになったようだった。
だから、仲間の声だけが若いメック戦士の心の支えになっている。
「なぁ、この任務が終わったらさ...」
『...それの先は言っちゃダメよ。』
「なんでだよ?この仕事って、報酬で氏族メックが貰えるんだろ?
何がもらえるか、考えるだけで今からワクワクしないか?」
『...はぁ...わたしがバカだったわ。』
気を紛らわせるための軽い雑談をしているのに、彼女のノリは良くない。
長い付き合いから、これは彼女の機嫌が悪い時の反応だと彼は気が付いていた。
それでも、彼は口を動かし続ける。
「さっきから、ヒキガエルの連中、こっちをチラチラ覗くだけだ。
きっと、メックと戦う勇気がないんだぜ。」
彼女を力づけるように、彼は鼻で笑って見せる。
調子に乗って、メックの手に握った剣を振り回して見せようかという考えも思い浮かんだが、それは止めた。
背中を一度ブルリと震わせて、今度は自分に言い聞かせるように小さく呟く。
「...氏族なんて、屁でもねぇさ。」
精一杯の強がりを口にしても、彼の膝は震えていた。
少し静寂が続くだけで、無線機越しに彼女のその音を気が付かれそうなほど、膝が大きく振れている。
その振動が口元に昇ってくるので、仕方なく彼は歯を食いしばった。
そんな彼の努力をよそに、自分の仕事を続けていた彼女が短く息を吐く。
『...よし、イケそうよ。』
「何がだよ?」
前置きを全て省かれてしまった言葉に、彼は眉を顰めた。
一緒に長く過ごしていたとしても、エスパーでもなければ言葉も無しに彼女の考えがわかるはずがない。
両手に収まる操縦桿を握りしめながら、彼女がヒントをくれるのを待った。
『もし、相手が仕掛けてきたら...わたしが、天井を開くわ。
あなたとSpiderは、天井が完全に開いたら、そこから基地の外に出るのよ。』
「...逃げろってか?」
『...その方が。空を飛べた方が、Spiderは有利に戦えるでしょう?」
一瞬、怒りと戸惑いが彼の頭を過り、それらの入り混じった声が出る。
しかし、その直後にそれを上塗りする彼女の言葉に、彼は納得してしまった。
パーシャルウィング背に積んだこの機体の特徴を生かそうとすれば、彼女の考えに反論する余地はない。
言葉を失ったまま、彼は頷く。
何も言わずに自分の乗る機体の周囲を見回す。
明かりのついていない基地の金属製の暗い色の床は、ひどく殺風景に見えた。
考えても仕方のないことだと意識を変えようとする。
彼の前向きな気持ちを肯定するかのように、Spiderのキャノピーの周りを眩い光が奔った。