Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Over Zuhai
Zhongshan System
Jade Falcon
17 March 3151
敵コルベットが爆炎に包まれた。随伴していた降下艇3隻もすでに熱源を失い、宇宙空間を惰性で漂っている。
勝利は目前だった。味方の損耗も軽微。上空の識別信号はすべて健在。そう思った、その瞬間だった。
「7番機、突入します!」
通信が走ると同時に、一機のVisigothが加速した。艦橋めがけてコルベットの真上から突き進む。7番機、シフだ。
制止は間に合わない。敵艦にわずかに残っていた砲座が火を噴いた。シフ機はその直撃を喰らったように見えた。
「七番、応答しろ。七番、シフ……!どうした!」
7番機は敵艦を掠めた後、進路を変えることなく、まっすぐ戦場から離脱していく。
その様子は、制御を失っているかのようだった。
通信機に走るノイズ。微かに、歪んだ音声が漏れた。
《……や、やっちゃいました。敵艦の艦橋、見えたので……つい……でも、コクピットやられて、左が……動かない……!》
ユルの背筋が凍った。
7番機のキャノピーに内側に大きな赤黒い飛沫の痕跡が見えた。
もし先の被弾がコクピットブロックを貫通したのだとしたら、もはや7番機は帰還すら危うかった。
敵のコルベットの状態を急いで確認する。
味方機の波状攻撃で、コルベットは熱源を失い、エンジンも火を失っていた。
もう、あのコルベットが息を吹き返す方法はない。
「全機、七番機の援護に回れ。俺が先導する。」
怒りが喉元までこみ上げた。
前に出るなと、ツェレンとも約束していた。
コボルは何度も言っていた。「功を焦るな。生きて帰れ」と。
——なぜ、それを忘れた。
だが、ユルはその怒りを噛み殺し、冷静な声でシフに呼びかける。
「聞こえるか、シフ。いいか、帰還は俺が誘導する。姿勢の制御に集中しろ。生きて戻れ。それだけでいい。」
《……了解。隊長……私……絶対に機体は、無事に戻します》
通信機の向こうから聞こえた言葉に、ユルは小さく唇を噛んだ。
——機体じゃない。お前自身だ。
ツォンシャンへの再突入中、七番機は何度もバランスを崩しかけた。
そのたびにユルが通信でシフの名を呼び、姿勢制御を指示する。
沈みかけたシフの意識を呼び起こしながら、ようやく青空の下に戻ってくる。
ブラックアウトを抜けて、ユルは隊の各機へ報告を指示する。7番機もどうにか応答を返している。
——なんとか、帰り着いてくれ。
ユルの祈りを邪魔するかのように通信機が鳴り響いた。
「スマン、もう一働き頼む。」
無断出撃したTimberWolfの撤退支援のために、帰還を取りやめて欲しい。というコボルからの悲鳴だった。
こんな時にッ。とユルが歯軋りをした。
「2番機が行く。4番機、続け。」
そんなもん知るか。とユルが通信機に怒鳴りつける前に2番機が返事をした。
ドルマーはきっと怒っている。2番機はスッと機体の方向を反転した。
ツェレンの心中はきっと今のユルよりも荒れ狂っているだろう。それでも、4番機も機体を反転して2番機に続いた。
滑走路に着陸すると、ユルは七番機へと駆け寄った。機体の装甲には焦げ跡と無数の小穴が空いていた。
キャノピーを開けるとコクピットの左側は血の海だった。
シフは自分で止血の努力をしたのだろう。腕と脚はパイロットスーツの切れ端で乱暴に縛られていた。
ユルは朦朧としているシフを衛生兵と共に引きずり出して担架に固定する。
「左腕と、左脚。出血量は多いが……意識はある!」
担架の上で、シフが血に染まった顔のまま、ユルを見た。
口元が動く。
「……機体は、無事です。ごめんなさい。パイロットは、すみません……」
シフの言葉が、ユルの心臓を抉った。