Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump Control tower
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
18 March 3151
「返してきなさいっ!」
コボルの悲鳴にも似た怒声が響いた。どうしてこの男はいつも誰かを拾ってきてしまうのか。
TimberWolfから降りてきたドルジは、またしても誰かを担いでいた。
彼女は気を失っている上に、ずぶ濡れになった跡があった。帰還中に寄った水辺で拾って来たのだろう。攫ってきたわけではないにしても、ドルジが踏み潰したエアカーには、説明が必要になるだろう。
ドルジの肩から地面に降ろされると、彼女はうっすらと眉を動かした。まぶたが震え、わずかに開いた瞳が、鈍く光を反射した。
「……ここは?」
ズハイ近郊の弾薬集積場だとコボルが答えると彼女は2人の男を見上げた。
彼女に混乱はなかった。視界を彷徨わせているように見えて、彼女の目は管制塔、格納庫、警備の配置をしっかりと確認していた。
ーースパイか。
視線の動きに一瞬だけ身構える。何かあった時のため、ポケットに潜ませた暗器に指をかける。
名前を言えるか?とコボルが訊くと彼女は「アリマ」と答える。
続けて、ドルジがメックの操作ができるな?と確認をする。
そんなわけが——とコボルが言う間もなく、アリマは2人に笑みを振りまいた。
「私はIota銀河のメック戦士よ。機体は失ったけども。メリッサ共和国がマチダに来たの、知ってるでしょう?」
ーー演技が過ぎる。氏族の戦士がそんな名乗りをするか?
ドルジを見習え。この男は名前しか言わなかったぞ。
メリッサ共和国の公爵の話なら、コボルも知っている。次はチャハル星系が狙われるだろう。ツォンシャンまで手が伸びるかはわからないが、仮にそうなれば、ここの守備隊では太刀打ちできない。
コボルも名乗った。戦士階級ではないが、この基地を取り仕切っていると説明する。しかし、彼女の反応は変わらなかった。コボルの様子を伺うのに精いっぱいで氏族の戦士階級の人間が非戦士階級に向ける眼差しを忘れている。
TimberWolfの核融合炉の緊急冷却後に浮上した際にアリマを引っ掛けた。彼女を基地に連れて来た経緯の話をすると彼女は目に見えて機嫌を悪くした。
それでも2人のうちどちらかが引っかかればいいとでも思っているのだろう。上目使いで強烈な色気をぶつけてくる。切り替えも早い。コボルが色仕掛けに反応しないと悟ると、すぐにドルジに視線を移す。
大したものだとは思うが、ドルジがそういう興味を示すには彼女は若すぎる。そうだな、もし、ツェレンがその気になれば篭絡できたかもしれないが、あいにくと彼女は既婚者だった。
何を企んでいるのかわからない娘だったが、ドルジは彼女を取り込む気のようだった。賛成しかねるとコボルが言っても聞かないだろう。
ーーどこの人間だ。
探りを入れ続けるが、彼女の目当てがわからない。とにかくこちらの懐に入り込みたいようだ。
彼女の望みは叶いそうだ。問題は彼女の目的だった。基地に害を及ぼそうと言うのなら、排除しなければならなかった。
本当は無断出撃の件でドルジに一言言うつもりだった。しかし、もはやそれどころではなかった。
ドルジにメック調達状況を訊かれたが、そもそも中古ですらメックは希少品だ。戦果は芳しくない。
パイロットも雇用はうまくいっていない。ツォンシャンよりももう少し国境沿いの星系の方が仕事があるのだ。
「メック戦士に心当たりがあるの。」
しばらく蚊帳の外になっていたアリマが、ふいに口を開いた。機体を失った後に戦乱を避けてツォンシャンに隠れ住んでいる氏族出身の戦士がいるらしい。
ウォッチの人間か。コボルはアリマの本当の所属について見当をつけた。
各地で監視の任に付いているウォッチなら、まだ近隣の惑星に潜伏していたとしても不思議はない。
あれほど濃密だった色香の気配は、すっかり霧散していた。趣向を変えたのだろう。
「ドルジ、採用は任せる。」
コボルはドルジと目を合わせた。アリマについても彼に任せるしか無さそうだ。コボルにはどうしてかわからなかったが、集まるのだ。皆、あの男の元に。