※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.04_07

Ammo Dump Maintenance Hangar

Zhongshan System,Zuhai

Jade Falcon

20 March 3151

 

 黄色いラインを巻いた特徴的な緑色をしたボディのKitFox。

 その脚の下で棒立ちすること、数分。

 この建物の何がどこにあるのかも、誰がどこにいるのかもわからない。

 

 この基地には、TimberWolfとKitFoxの2機以外にメックはなかった。

 専属の整備の担当の人はいなくて、みんな、気圏戦闘機の整備を兼任している。

 自分の機体の面倒は自分で見る覚悟をしないと、誰もこの機体の面倒を見てくれそうになかった。

 海賊船にも整備専門、なんて人はいなかったから、環境はそこまで変わらない。

 

 でも、これがお前の機体だ、とか言われても、どうしたらいいのかわからなかった。

 目に付いた重機はキーでロックされていて、びくとも動かない。

 コンテナを全部開いて回るわけにもいかなくて、工具も見つからないからお手上げだった。

 両手を頭の上に持ち上げて、一人で万歳のポーズをとってみる。

 無人の格納庫で、そんなことをやっていても、誰も助けてくれない。

 しばらく無意味な時間を過ごした後に、トヤーは誰かを探しに行く決意をする。

 

「……あれ?」

 隣の棟の灯りに誘われて中を覗き込んでみると、明るい光が闇に慣れた目に眩しい。

 頭上の照明が妙に白くて、足元の滑らかな樹脂の床がそれを反射している。

 部屋の中の空気も、埃の臭いはしなかった。

 その下で翡翠の色に輝く戦闘機が並んでいる。

 

――この機体を、あたしは知っている。

 

 真っ赤に響く警報と無線機の向こうの悲鳴と怒声。

 船体の傾きが増す中で、船体側面のハッチを開けてくれた仲間。

 グルグルと無軌道に回転するコクピットと次々に明かりを失っていくパネル。

 それでも、しつこく彼女を啄む翡翠色の隼たち。

 

 頭の中で再生された記憶に、足が自然と後退る。

 この部屋の住人達とトヤーは無縁ではない。

 つい先日、彼女と仲間たちを地に堕とした彼らに睨まれているような気がして、彼女の脚は竦み上がった。

 

 この格納庫が特別に新しいわけじゃない、掃除がちゃんとされているだけ。

 その証拠に、観音開きの扉の下には、薄くなるまで磨かれたタイヤが床を擦った跡がほんのちょっとだけ残っている。

 全ての住人が一旦立ち去った後のメックの格納庫と、今も生きている飛行隊の格納庫では色が違って見えた。

 お互いの立場の差を突き付けられたような気分がして、トヤーはもう一歩脚を引く。

 

「関係者以外、立入禁止だ」

 首を振って後ろを振り返り、そこから立ち去ろうとした彼女の背後から低い声がした。

 びくっとして声のした方に向き直ると、そこにはコワモテのオジサンが立っている。

 黒いツナギ姿で腕組みをする姿は、どう見ても門兵とかじゃない。

「あ、あの、えっと、あたし、Kit Foxのパイロットで……。」

 何かを説明しようとしたが、まるで下手くそな自己紹介のような言葉しかトヤーの口からは出てこなかった。

 

 Kit Foxのパイロットと名乗ることに、まだ慣れていない。

 何を言わねばならないのか、頭の中で整理が追い付かなくなった。

 両手を頭の上に持ち上げて、再び万歳のポーズをとる。

 そんなトヤーを前にして、オジサンは一瞬だけ目を細め、眉をわずかに寄せた。

 

「……ああ。お前、あの……」

 彼が何を思い出したのかはわからない。

 でも、その顔が浮かべる表情は複雑だった。

 それはそうだろう。彼らはトヤーを地に叩き落とした側の人間だ。

「ついてこい。迷子のまま、ウロウロされても困る。」

 オジサンはそれだけ言うと踵を返す。

 無言の背中はドルジよりも2周りくらい小さい。

 それでも、小柄なトヤーよりは大きく見える。

「メック戦士だろ。Kit Foxくらい、自分で扱えるようになれ。」

 こっちは忙しいんでな、と背中が語ってるけども、氏族メックを扱うのはトヤーも初めてだ。

 工具やキーのしまってある場所のことから、教わる。

 コクピットのハッチの開け方までオジサンに訊く。

「...起動くらいはできるのか?」

 本当にメック戦士なのか?と首を傾げながら尋ねられてしまう。

 そう言われても仕方がないくらいに、あたしは何も知らない。

 

 シートに座って初めて、KitFoxのキャノピーの内側から周囲を見まわす。

 この前まで乗っていたJennerIICとはコクピットに並ぶボタンも計器も全然違う。

 モニターの数も違えば、ヘルメットすら置かれていない。

 窓も小さくて、中はなんだか暗かった。

 これ以上、「わかりません。」とは言えなくて、トヤーは黙って操縦桿を握る。

 背につき刺さる疑いの視線が痛くて、涙が溢れた。

 

――助けて。

 

 目を瞑って、ここにはいない誰かに向けて、トヤーは心の中で呼びかける。

 すると、頭の中に誰かからの返事が返ってきたような気がした。

 途端に暗かったコクピットの中に、ボタンと計器のランプが煌々と光り始める。

 続けて、システムの音声メッセージが耳と頭の中に響いた。

 

《リアクター オンライン》

《センサー オンライン》

《ウェポン オンライン》

《オールシステム ノミナル》

 

 知らない空間に居るはずなのに、ふとどこか懐かしい香りを鼻で嗅ぐ。

 コンソールの光が、あたしの身体に纏わりついて翡翠色の光に変わって輝きを増す。

 身体の自由が利かないことに不満を覚えたので、目を瞑って、背に力を入れた。

 金属のはじける音と共に背中と肩の拘束が外れて、あたしの両腕に自由が戻る。

 大きく息を吸い込みながら、足を数歩だけ前に踏み出す。

 身体の周りの埃の臭いが増した気がして、鼻をクンクンと動かした。

 久しぶりに感じる自由が嬉しくて、庫内で反響するくらいに大きな駆動音を立てる。

 後ろを振り返れば、オジサンがハンガーの作業用通路で困惑の表情を浮かべていた。

 

――あのおじさん、ユルって名前なんだ。

 

 視覚センサーで彼の顔を捉えると、走査した後に、彼の情報が頭の中に流れ込んでくる。

 さっきまで知らないオジサンだったのに、いつの間にか名前どころか彼の経歴まで知っていた。

 とりあえず、彼の方に翡翠色の左腕を向けて、手でVサインを作って見せる。

 ついに驚きの表情を隠せなくなった彼の表情に、あたしはちょっとだけ自信を取り戻した。

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