Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump Medical Section
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
25 March 3151
第128弾薬集積場の医療区画。
つい先ほどまで、この辺りで響いていた若い女の苦悶と後悔の滲んだ泣き声は今は止まっている。
声の主はパイロットの夢を絶たれたシフだった。
シフの無謀な斬り込み。
その結果、機体は基地まで戻ってきたが、パイロットが元の姿に戻ることはなかった。
帰還したシフはすぐに左腕と左脚の手術を受けている。
だが、彼女の左腕と左脚はほとんどの部分が砕けて千切れていた。
基地の軍医が彼女の生命を優先するために損傷した部位を切断した判断は正しいのだろう。
だが、治療が終わり命が助かったとは言えど、かつて格納庫を駆けて、空に吠えた少女はもうそこにはいなかった。
訓練時の明るさも、思いつきだらけの他愛のない雑談も、全てが失われている。
言葉を無くしていたユルとツェレンの代わりに、コボルがこの残酷な通知をシフへと届けた。
いつの頃からか、若い女の悲鳴や悲嘆を耳にするのが苦になっている。
病室で後悔と悲嘆に暮れるシフに何かしてやれることはないか。
コボルは連日連夜、彼女の苦痛を取り除く手段を探し求めた。
しかし、基地の軍医はユル、ツェレンに加えて、コボルまでもシフと面会禁止にする。
今の彼女では、この3人と会うのはメンタルに悪影響。というのが理由だった。
なぜ、もっと早く止めなかったのか。なぜ、もっと強く指示を出さなかったのか。
後悔ばかりで答えが出ず、途方に暮れるしかなかったコボルはドルジへと意見を求める。
——戦闘機乗りに心を戻すなら、戦場に戻すのが一番だろう。
この男に意見を求めた自分がどうかしていた。
彼の答えを聞いた瞬間はそう後悔する。
しかし、それを狂戦士のただの妄言と片付けようとしても、その言葉はどこか正しいようにも思える。
何より他に妙案もない。
メック戦士と目線だけで対話を繰り返すうちに、コボルは己の考えの浅さを理解した。
「サイバネティックか。」
彼女の体が義手義足に適合すれば、彼女には再び空に戻る道がまだ残されている。
基地にいる軍医では、その処置は行えない。
だが、世の中には人間をほとんどサイボーグに変えられるような腕の持ち主がいる。
そんなの腕利きの一人が、ちょうど今はズハイの警察病院で勤務していた。
そして今、彼女はドルジの訪問を受けている。
軍医も看護師もコボルやユルが部屋に入ろうとするのを引き留めた。
だが、歩みに迷いのないこの男のことを彼らは止められない。
彼の目的が、シフに義手義足の適合試験を受ける同意を取るためだと知っても、声すら上げられずにいる。
抵抗がないのは彼が氏族の上位のカーストにあるからでも、威圧への恐怖からでもなかった。
彼の道に立ち塞がるほどの意思を持つ人間がここにいない。
当然のことをやっているという自信が、彼の態度と姿勢に表れている。
彼の訪問は一方的で、扉を開くのにも断りすらない。
それでも、彼がシフの病室に入っていくことに不思議を感じる者はいなかった。
中にいるシフはさぞ驚いただろう。
そんな彼女にドルジはそれを意に介することなく一方的に要件を伝えるのだ。
彼の行動そのものについては彼女の意思は関係しない。
彼が彼女の意思を確認するのは最後の一回だけ。
それがこの戦士のやり方だ。
今晩の訪問者がシフから見て、いつもと違うところは礼節の話だけではない。
コボルやユルと違って、ドルジは彼女をまだ戦闘機乗りとして扱っていた。
そして当然、彼女が戦場に帰るものだと思っている。
お見舞いでもなく、慰めに来たわけでもない。
彼はいつも通り、彼女を「攫い」に来ているのだ。
騒ぎを聞きつけたのか、病室の外で黙って扉をにらみつけるコボルの隣にツェレンが忍び寄る。
ほとんど音を漏らさない病室の前で、二人は静かに答えを待った。
そして、ずいぶん長い時間が経過した後、
「戻ります。……もう一度、空に。」
病室の中から、はっきりとした聞き覚えのあるシフの声を二人は聞いた。