Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Old Mine
Zhongshan System, Zuhai
Jade Falcon
25 March 3151
ツォンシャンの山間、廃坑となった山の奥深くに、誰にも気づかれぬよう仮設の隠れ家があった。
岩肌に穿たれた穴。掘削の名残が無骨な断面として残り、そこに張った木の板と草で編んだ布で粗末な壁や仕切りが組まれている。
風も届かない。湿った空気が岩に染みこみ、時折しずくとなって床に落ちる。
その闇の中で、アンネはひとり身を潜めていた。
小さくたたまれた寝袋の上で、彼女はずっと眠っていた。
氏族に生まれ、戦士として育ったかつての仲間は皆、戦火に散った。
もう誰も彼女を探さない。彼女もまた、誰にも見られたくなかった。
だからここにいる。岩の静けさに自分の気配を消して、今日も、明日も、ずっと。
どれほどの時が経ったのか──
彼女はふと、夢の底から目を覚ました。
音が、しない。
本来であれば耳の奥を撫でる湿った風の音も、壁を這う虫の足音も、聞こえない。
……誰かがいる。
その確信が、喉の奥を締めつける。
アンネは身じろぎひとつせず、まぶたを閉じたまま、呼吸も抑える。
感覚を、研ぎ澄ませる。
──いる。
背後。手が届くほどの距離。息を呑めば、気づかれてしまいそうなほど近くに。
冷たい空気の流れが変わったと思った次の瞬間、彼女の体がふわりと宙に浮いた。
寝床がない。岩の床が遠ざかっていく。体温が、音もなく奪われていく。
誰かに、担がれている。
肩に触れる硬い感触、揺れるたびに伝わる筋肉の振動だけが、それを教えていた。
だが、音は一切しない。足音も、呼吸音すらも。
アンネは目を開けなかった。
暗闇に目を慣らす前に、感覚の奥から何かが訴えかけてくる。
この匂いを──知っている。
火薬の匂い。汗と鉄と血の混じった、かつての戦場の記憶を刺激する気配。
それは忘れられた仲間たちと過ごした、遠い過去の残り香。
けれど、思い出にするには、あまりに生々しい。
振り返っても、相手の顔は見えなかった。
でも、不思議と不安がなかった。
アンネは声を上げなかった。抗おうともしなかった。
アンネがどこかに置いてきた心か、運命か。
そのどちらかが、星に導かれて彼女を迎えに来たようなそんな心地よさを感じて目を瞑る。
体の奥で眠っていた何かが、ほんの少しだけ、目を覚ました気がした。
──こうして、静かに彼女は攫われていく。
冷たい夜気の中、二人の影は音もなく岩の闇を出て、静かな住まいを後にした。