Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump Command Office
Zhongshan System, Zhuhai
Jade Falcon
26 March 3151
ドルジが攫ってきた女は、どう見てもメック戦士にしては身が細すぎた。
肩まで伸びた髪はぼさぼさに乱れ、薄汚れた貫頭衣に身を包み、両手は細く力を感じさせない。まるで古代遺跡から彷徨い出てきた亡霊のような姿だった。
司令室の入り口に、ぽつねんと立つその姿は、艶やかなものでも、凛としたものでもない。ただ、そこにいるだけで、場の雰囲気を損ねていた。
ドルジはこの女を「メック戦士として復職させる」と言う。
新手の冗談かと思った。だが、ドルジが言うなら、きっとそうなるのだろう。反論しようとして、コボルは言葉を飲み込んだ。
今のコボルに、ドルジの決定に異を唱える力も資格もない。
ドルジが彼女を残してどこかに去っていく。
司令室の扉が閉まると、二人きりの静寂が落ちる。
女は、静かに顔を上げると、こちらを真っ直ぐに見た。
その目は、どこか翡翠色の混じる、深い碧だった。
「あなたは、成したいことを成す前に死ぬわ」
歌うような声は、よく通る。だが淡々としていて、威圧でも侮蔑でもない。ただ事実を述べるような響き。
女はまるで、何かを見透かすようにコボルを射抜いていた。
——誰が殺すって? まさか、俺が暗殺でもされるとでも?
喉まで出かかった皮肉を、ぐっと押しとどめる。こんな状況でふざける余裕はない。
この世に、わざわざ俺を殺そうとするほど酔狂な奴がいるものか。
「あなたは人よ。人には人の限界がある。あなたはそれを越えようとしている。……誰かがあなたを殺す前に、あなた自身が先に滅びるわ」
女はさらに言葉を重ねる。その声音は月光のように静かで、どこか優しさすら感じさせた。
過労死、神経衰弱、突然死……
言われてみれば、笑えない話だ。最近は確かに無理を重ねてばかりだ。だが、そんな簡単にくたばるつもりもない。
——そう簡単に死ぬもんかよ。俺にはな、まだ夢がある。
そう心の中で返すと、女はまるでその思考を読んだかのように、そっと首を横に振った。
「不器用な人。あなたは、いつも一人ね」
呟きは、嘆息ともため息ともつかない。
そこに混じる彼女の感情をコボルは読み取れなかった。寂しさか、哀しみか。
……いや、そもそも、俺は一言も発していない。
ハッとする。さっきからこの女は、いったい誰と喋っているんだ?
口も動かさず、ただ視線だけをこちらに注ぎ続けている。
ふいに、女の唇が微かに動いた。
「人を信じて。それもまた、勇者の素質よ。」
距離はあるはずなのに、声がすぐ耳元で響くように感じられた。
忠告か、預言か。それとも、ただの独り言なのか。
コボルは混乱し、知らず眉根を寄せていた。
この女は、何かが違う。常人の枠をはみ出している。
これ以上関われば、ろくなことにはならない──
直感が警鐘を鳴らしている。
だが、なぜか目が離せなかった。
ほんの一瞬、女の澄んだ瞳に映るものにふと興味がわく。
……やめておけ。
あれは、人が触れてはならない類だ。