※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.04_12

Ammo Dump Cabin

Zhongshan System, Zhuhai

Jade Falcon

18 April 3151

 

 星々も凍るような、深い夜。

 すべてが沈黙に包まれる時刻。風も止み、草の音すらない。

 その静寂を裂くことなく、ひとつの影が滑るように現れる。

 

 アンネだった。

 

 扉が動いた様子はない。足音も、衣擦れもない。

 ただ、彼女はそこにいた。ただ月明かりを背にしてそこに立っていた。

 その身を覆う黒のローブは空の闇と溶け合い、地に落ちる影すら持たない。

 彼の寝所の中央に星明かりをたよりに、アンネは進む。

 ドルジは目を開けていた。すでに、彼女を見ていた。

 言葉はない。ただ呼吸が視線が交わる。それだけで十分だった。

 

 アンネは、静かに、ひざまずく。

 淡く照らす月の光が彼女の肩と頬に落ち、わずかに揺れる。

 

 手を伸ばし、彼の衣の裾に、そっと手を添える。

 星々の光が白磁の頬を洗うように滑った。

 頬を寄せ、唇を静かに開くと、彼女は、そこへ吸い寄せられるように、啜るように生命の熱源に触れた。

 祈りのように捧げるように月の女神が供犠を捧げる。

 

 彼の指が彼女の頭に添えられる。拒みもしなければ、傷つけもしない、抱き寄せもしない。

 ただ、静かにそこにある。

 

 アンネが目を閉じる。彼女の胸の内側で、微かな波が広がる。

 彼の中から満ちてくるものが、彼女の口内に、胸に、そして魂に浸透していく。

 拒むものはない。ただ、彼女の奥へと静かに注がれていく。

 

 涙がひとしずく、頬を伝って落ちた。

 彼の温もりが満ちた触れた瞬間、心の奥底に沈んでいた孤独が、すこしだけ溶けた。

 彼女の表情から怯えが消えて、安堵が漏れる。

 

 やがて、彼女はゆっくりと立ち上がる。

 静かな舞のように、滑らかに、彼に跨る。

 薄衣が影を滑るように腰をなぞる。

 

 雲の切れ間から差す星々が、その一対の姿を照らしていた。

 静かに揺れる身体。重なる呼吸。

 動きは遅く、そして、祈りのように慎ましい。

 淡い月光が二人を染め、ひとつの影をつくる。

 彼の内と彼女の内がひとつに溶け合う。

 満ちては引き、波のように続いていく。

 

 やがて、彼女は身を離し、前に倒れるように額を床につける。

 彼は何も問わず、ただ彼女の腰に手を添える。

 後ろから、深く、強く、静かに彼女を満たす。

 その瞬間、アンネは微かに肩を震わせ、小さな息を吐いた。

 夜の気配にその震えだけが波紋のように広がり──やがて、すべてが静かになった。

 

 しばらくして、アンネは身を起こし、衣を整える。一礼のような所作を残し、立ち去る。

 

 彼に背を向ける前、ほんの一瞬だけ、その眼差しが彼に向けられた。

 なにも言わず、なにも求めず。

 ローブが舞う音さえ残さず、闇に溶けるように姿を消した。

 

 雲が月を呑み、再び夜闇が全てを飲み込んだ。

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