Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump Landing Pad Bravo
Zhongshan System, Zhuhai
Jade Falcon
22 April 3151
整備員たちが発着場の端で機材を縛り直している。北風が湿った砂を巻き上げ、遠くに霞む山並みすら見えなくなりかけていた。
コボルは出発準備を整える部隊を見渡しながら、積み込み表に目を通していた。航路も跳躍の中継地も決まっている。定刻までは数日あるが、準備にかかる時間はギリギリの計算だった。
その時だった。金属ブーツの重い足音とともに、怒りを押し殺したような声が背後から響いた。
「話がある。」
振り返らずともわかる。飛行隊の部隊長のユルだった。
彼は黙って指揮車両の前に立ち、しばらく何も言わなかった。軍服の襟を無造作に外し、顔にはひと目でわかるほど不満が刻まれている。
「どうしてツェレンを外に出す。あいつの状態はわかってるはずだ。」
静かな、だが明らかに怒気を含んだ口調だった。周囲の者たちがそっと距離を取るのが見える。
コボルは書類を畳み、静かに顔を上げた。予想していた抗議だった。やはり来たか、とも思う。
「俺たちに何ができる」
ユルが止まった。
「7年前、傷心の彼女に何もしてやれなかった、俺たちに何ができる?」
コボルはユルの目を見てもう一度言った。
「それは......」
ユルの声がわずかに震えた。彼は感情を噛み殺すとき、いつも喉を詰まらせる癖がある。
「4年間、この基地はあいつらが過ごした花の巣だ。そこから少しでも距離を離してやる。俺にはそれ以上は思いつかないんだよ。お前はなにか思いついたのか?」
コボルは少し声を荒げた。反対はするが、必ずしも対案を用意できないのはユルの弱点だった。
「ドルマーが一緒だ。妹分と一緒の旅なら、少しは気が紛れるだろう。」
コボルの言葉にユルが悔しそうに歯軋りを見せる。しばらく無言の睨み合いが続く。やがてコボルが静かに口を開く。
「……俺たちに出来ることはそのくらいだ。」
ユルは何かを言いかけたが、結局、言葉にならなかった。
この基地がドルジたちに用意できたメックは、TimberWolfを含むたった3機だった。飛行隊からも4機を割り当てた。
基地の戦力のほぼ半数と一緒に彼女をドルジに預けることになる。こんなに無力で良いのかと自問しても、答えは無かった。
航路も行き先も、すべてドルジに委ねた。ズデーテンは拡大が遅い。ツォンシャンがその傘に入る前に、メリッサ共和国がこの星系を呑み込む可能性は高かった。
コボルは傷心のツェレンに吹き込んだ。
ーー共和国の軍勢が攻めてくれば、この基地の残りも全員死ぬ。
コボルはわざと彼女の傷に塩をすり込んだ。
商人艦隊の名を持ち出して、艦隊の指揮官マレナを探すように彼女に言い含めた。
もし、この脅迫をユルが知っていたのなら、コボルはユルに縊り殺されていたかも知れない。
風が一陣、東から吹き抜けた。彼の肩に砂埃が当たる。顔をしかめたまま、ユルが拳を一度握って、そして緩めていた。それは、理解ではなく、諦めの仕草だった。
コボルはその背に手を添えると、また黙って書類に目を落とした。