Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.05_01
Union class Dropship Bay
Blumenort System, Zenith
Lyran Commonwealth
29 April 3151
一度目の役目を終えた航宙船は次の跳躍のための充填をしている。必要な灯り以外は消え、静かに座標を漂っている。その側面に張り付く降下船の照明も常時灯ではなく、必要な通路といくつかのベイだけを小さな照明が淡く照らしていた。空調は静かに循環音を鳴らし、格納された気圏戦闘機の機体が冷えた金属の匂いを漂わせている。
ツェレンは、自機の計器チェックを繰り返していた。彼女の機体はすぐに飛べる状態ではなかった。輸送用に主翼などの飛び出た部分がバラされて胴部だけになっている。
コクピットに潜り込んで、慣れた指先で計器類をなぞる。どの針も正常に動いている。それでも彼女は数値を眺め続けた。理由はない。ただ、ここを離れたくなかっただけだ。
音もなく格納庫の扉が開く。振り向かずとも誰かが来たと分かった。足音は重く、だが整然としている。振り返ると、やはりドルジだった。彼はいつものように無言のまま、機体の傍に立つと、静かにコクピットを見上げた。
異常か?と低い声が、乾いた空気を震わせる。
「いいえ。」
ツェレンは首を振った。嘘ではない。ただ、胸の中の何かがずっと異常を訴えている。 ドルジは頷きもせず、その場から動かなかった。あくまで彼女の“そばに在る”というだけの存在。
ツェレンは何かを言おうと口を開いきかけた。それなのに、喉が自然と閉じていく。
ドルジは黙ったまま、ただツェレンの機体の横に立っていた。暖かくも冷たくもないその静かな佇まいが、逆に彼女を追い詰めた。
ツェレンは、機体をそっと降りた。
「何も言わないで。」
その言葉とともに、彼女はドルジの胸に顔を埋めた。彼の手が応えることはなかった。抱きしめるでもなく、拒むでもなく、ただ立ち尽くすだけだった。それでよかった。
何も言わない。何も確かめない。ただ、自分の弱さを、誰かに預けたかった。後ろめたい想いもどこかにある。だが、ツェレンの心は理性を振り切っていた。
ツェレンは戦士であることをひとときだけ降りた。
翌朝、艦内の灯りが少しだけ明るくなった頃、ツェレンは室の鏡の前で静かに髪を整えていた。あの人はもう艦橋にいるのだろう。
ツェレンは豊かな身体を再びフライトスーツに収める。鏡を見つめたまま、かすかに呟いた。
一度だけ、寝台を振り返った後、彼女はしっかりとした足取りで部屋を後にした。