Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
10 October 3145
訓練飛行の終わった後のパイロットがブリーフィングルームに集まる。
1星隊全員を収容するスペースがあるはずだが、それでも10数人がひしめくと手狭だった。
講評が終わった後、部隊長となったユルが厳しい目で再度サリーナに言い放つ。
「お前はトリガーが甘すぎる。そんなんじゃ、敵は撃ち落とせんぞ」
日頃から飛行の成績の良くなかった彼は他のパイロットからすれば、いいカモだった。
サリーナは教官補となっていたツェレンに残るように命じられる。
やがて他のパイロットが去り、部屋には1組の男女だけが残った。
ツェレンは腕組みし、じっとサリーナを見つめている。
「どうして、トリガーを引かないの?」
訓練の飛行記録は確認した。そもそも彼は訓練中、照準器も火器管制装置も起動していない。トリガーが甘い、どころの話では無かった。
サリーナは黙って下を向き、手の中のカメラをいじる。
「......別に、トリガーを引きたいわけじゃないんですよね。シャッターの方が好きなだけで......。」
ツェレンはため息混じりに首を振る。
「偵察機だって、相手を撃たなきゃ帰れない時もあるのよ。撃てなきゃ死ぬだけ。」
彼の希望は偵察隊だったが、今の彼が乗っているのは軽戦闘機だった。
「写真ならいくらでも撮れるんですけどね。」
サリーナが差し出したパッドの画面を誘われるままに覗き込む。
訓練中に彼が撮影した写真が並んでいる。サリーナを狙った訓練生の機体を襲う4番機の写真。回避機動中の割にはどれも、良く撮れていた。
「訓練なんだから、撃墜したって誰も死なないわ。逆に撃たなきゃ、キミは前に進めない。」
教官側の手心を暴露されたような気がして、ツェレンは声色を変える。
サリーナからパッドを取り上げて、意味もなく過去の写真も確かめた。
目当てもなく、画面のスクロールを続けるとふと一つのフォルダに目が止まる。
「――ん?」
「天使」と名前の付けられたフォルダを開く。
数十枚、数百枚と並んだ写真に苦笑した。
訓練中の真剣な顔、整備中の無防備な後ろ姿、偶然撮れたであろう笑顔。
撮られた覚えのない写真が多かった。
「私の写真ばっかり」
ツェレンの漏らした声にサリーナが顔を赤らめる。
「写真技術を生かしたいなら、飛行技術も証明しなきゃ。せめて訓練で撃墜マークを稼がないとそもそもパイロット失格になるわ。」
「俺、ツェレンさんを一生撮れれば、パイロット失格でもいいです。」
筋金入りの追いかけの言葉は本気だった。でも、彼がツェレンの望むようなロマンチックな意図でこの言葉を選んだわけではないことはわかっている。
この僅かに遠い距離感は彼女の望む間柄では無い。ファインダーもレンズもただの邪魔な障壁だった。
ツェレンは彼へのアプローチを変えることにした。
待っていても、彼は来てくれない。
彼の気持ちを自分に向けるには、彼の今の人生観を壊すしかなかった。
パッドを脇に置いて、ツェレンは立ち上がる。
「そのカメラで、私を撮ってくれる?」
サリーナに柔らかい声で訊ねる。
今ですか?と聞き返す彼の声を背で聞きながら、彼女はパイロットスーツのファスナーを一気に降ろす。
胸を開きながら彼に向き直った。
「そう、今、ここで。」
インナーも脱いで、露わになった上半身をサリーナに見せつける。
カメラを構えるのも忘れて、彼女に見惚れる彼の姿にツェレンは満足した。
こういうのは殿方にリードされて迎えるのを夢見ていたが、その機会はもう永遠に来ない。
でも、良しとした。彼女の勇者様は悪鬼に襲われているところを救いに来てくれた。それ以上を相手ばかりに望むのは不相応というものだ。
驚きで全身を硬直させたサリーナは、しなだれかかる彼女に手を触れようともしない。
ツェレンは自分の唇を彼の唇に一度重ねると、サリーナの耳に囁いた。
「体、固くなってるみたいだから、ちょっと準備運動しましょうか?」
彼のニブさは相当なものだ。
でも、どんなに彼がニブくても、ツェレンは彼を逃す気はなかった。
――今日、キミを墜とす。私がキミに墜とされたように。
もう、決めていた。