Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ammo Dump
Zhongshan System,Zuhai
Jade Falcon
11 October 3145
「はぁ?」
彼とは短くない付き合いだったが、サリーナの言うことは今でもたまに意味不明だった。
天使と付き合い始めた、とは?何を意味するのかが分からない。
「病院、行くか?」
ズハイの警察病院なら精神科がある。
「そんなところより、デートできるところ教えてくれよ。」
サリーナが両手で頭を掻いた。
それはそうだろう、彼は浮いた場所とは無縁の男だ。
時代遅れのカメラを持って、一人の女を追って駆け回っているのが、彼だ。
「相手はツェレンか?」
「だから、さっきからそうだって言ってるじゃん?」
なんとか絞り出したツェレンの名前を相棒はあっさり肯定した。
ゾリグはツェレンに空で負け続けていた。
同年齢の格上のパイロットを越える。いつか、彼女に勝つと心に誓っていた。
勝つ内容は撃墜数、訓練での撃墜、どれでも良かった。
この飛行隊で彼女を上回るパイロットがいるとすれば、それは自分しかいないと思っている。
技術で言えば、負けているはずはなかった。
同僚のサリーナとはコンビだったが、パイロット技術で大きな差がある。
だが、同じ女を追いかけているという一体感があった。
技術差があっても、コンビを続けていられたのは視線の先が一緒だったからだ。
勝負をしている意識はなかったが、それでも、サリーナは先に彼女を「撃墜」した。
急に距離を離されたような不安に襲われる。
今までの妄執が解けて、ゾリグは急に負けを実感した。
――そうか、俺は負けたのか。
ゾリグは頭を抱えた。
撃墜数も、空での腕も、今までモノにした異性の数もどうでも良くなった。
彼が欲した栄光は今や相棒の手の内にあった。
「ゾリグ、病院行く?」
サリーナが、シャッター音をさせながら彼に訊ねた。
病院で治るような苦悶ではない。
――観察力だ。
耳に入る連続音から、ふと解が見つかった。
サリーナにあって、彼が負けているもの。
サリーナの撮影技術の高さは機器を操作する技術だけじゃない。
彼の機会を引き出す力、機会を逃さない眼が彼の「勝利」をもたらした。
そう考えると、相棒の趣味と能力は吸収するに値する。
「いや......、そんなことよりもそれだ。その骨董品が売ってる場所を教えてくれ。」
ゾリグは相棒の手元のカメラを指差して頼んだ。
サリーナの相手を観察して、一番いい時を狙うその眼を欲した。
「いいけど、ちゃんとデートスポットも教えてくれよ?ズハイ行く?」
ゾリグは頷いた。
彼の中で数字や実績への拘りは消えた。だが、頂を目指すのを辞める気は無かった。
サリーナへの負けを認めたことで、道が一つ拓いたのを感じ取る。
この上、ツェレンにまで負けるわけにはいかなかった。