※この作品はR-18です。

Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants   作:Sykyu

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Ep.05_06

Zenith Nearby Space

Blumenort System, Zenith

Lyran Commonwealth

29 April 3151

 

 静かすぎる闇。星々がまるで嘲るように瞬いていた。

 機体はゆっくりと回転を続けている。

 随分と懐かしい夢を見たような気がした。

 いよいよ、終わりの時が迫ってきたかと己のことをゾリグは鼻で笑う。

 

 視界の外枠が何かで染みたように滲んでいた。

 HUDは死んでいた。通信は繋がらない。IFFも沈黙。センサー類もダウンしている。

 Visigothのアビオニクスのほとんどが逝っていた。

 

 ゾリグは反射的に首を回し、キャノピー越しに外を見る。そこには、虚空が広がっていた。

 方角も、方向も、上下も、もうわからない。現在位置すら怪しい。

 

 哨戒行動中に母船からの流星群の警告があった。

 予定経路を外れて機体の航路を修正したが、その進路は星間塵の雲のど真ん中を通るルートだった。

 

 ほんの一瞬、機体の周囲に煌きが走ったような気がした時にはもう遅かった。

 高速で飛来する指先よりも小さな霰に機体の外装が打たれ続けた。

 わずか数秒だったかもしれないが、それはセンサーだらけの5番機にとって十分すぎる致命打だった。

 

 座席は跳ね、制御パネルが暗転し、機体が遠心分離機のように回り始めた。

 ゾリグは歯を食いしばって機体の制御を試みたが、どうにもならなかった。

 今や5番機が進んでいるのかいないのかすら怪しかった。

 

 機体の推進器は生きている。

 しかし、機体の目を失っている状態で闇雲に動くのは自殺行為だった。

 

——ここで死ぬのか。

 

 対メック戦や対戦闘機戦で堕とされるか、はたまた対艦戦闘で、光弾に蜂の巣にされて散るもんだと思っていた。

 地上で死ぬなんて冗談じゃない。そんなことも思った。

 

 この闇の中で、前後不覚に陥って1人じわじわと酸素量が減っていくのを見ながら死ぬことになるとは……。

 

 ゾリグは目を閉じた。

 機体の回転は、なおも止まらなかった。

 

——こんな最期は、冗談じゃない。

 

 口に出したつもりだったが、声は自分の耳には届かなかった。

 ヘルメットの内側に微かに霧が生じていた。

 

 その時だった。

 

——こんばんわ。

 

 誰かの声が聞こえた。

 

 幻聴と決めつけた。

 だが、もう一度。今度ははっきりと聞こえた。

 

 通信器のランプは死んだままだ。

 

 ならばこれは、どこから?

 

 パイロットスーツの中から聞こえてくるのか?ふと、右の手首が気になった。

 脳裏に浮かぶのは白磁の肌に、漆黒のローブ。

 

——どうぞ、こちらへ。

 

 気がつくと、5番機の回転が止まっていた。

 死んで灯りを灯さなくなったHUD越しに、淡く輝く道が見えるような気がした。

 

 灯りのない機体に、小さなオレンジの点滅が一つだけ宿っている。

 ゾリグはパネルのスイッチをひとつひとつ操作した。

 Visigothのエンジンに再び熱が宿る。機体が唸り息を吹き返す。

 ゾリグは、静かに操縦桿を握った。

 

 降下船を視界に捉えた時は目の錯覚かと思った。

 

 HUD越しの光の帯はなおも降下船に続いていた。

 通信もIFFも死んでいたせいで2番機が警戒のために、接近してきた。

 あとはいつも通りだった。

 

 誰も責めなかった。誰も咎めなかった。

 ドルマー隊長だけは「さすがゾリグ」と興奮していた。

 穴だらけとはいえ、機体を無事に帰還させたことについて、一定の評価を貰えたらしい。

 

——俺がやったんじゃない。

 

 ゾリグは胸のうちで呟いた。

 

 一通り、報告が終わったあと。

 ゾリグは自分がどこに向かって歩いているのかを、しばらく理解していなかった。

 

 ふと足が止まる。

 扉の開いた個室が目の前にあった。

 まるで、誘われるかのようにゾリグは入り口に吸い込まれる。

 

 部屋の中は夜のように静かだった。

 薄明かりの中で、彼女はひとり床に敷かれた薄布の上に座っていた。

 漆黒ローブをまとい、机の上に置かれた陶器の灯りに指をかざしている。

 その姿はまるで、ここが艦内ではなく、どこか異なる場所に思えた。

 

 彼女はこちらを見なかった。

 見ていないのに、気づいているような気がした。

 

 ゾリグは何も言わずに彼女の前に座り込むとアンネにちぎれた草の紐を差し出した。

 彼女は静かにそれを受け取ると静かに陶器の灯にそれを焚べた。

 チリチリと紅い光を放ちながら徐々に小さくなる様子をじっと見ていた。

 

——無事で良かった。

 

 漆黒の虚空で聞いた声と同じ声が聞こえた。

 

 アンネはゾリグの右手を手に取ると丁寧にどこからか取り出した草の紐を結んだ。

 しばらくの間、誰も何も言わなかった。

 

 それでも、あの宇宙のどこよりも、この部屋はあたたかさに満ちていた。

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