Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship Cabin D
Blumenort System, Zenith
Lyran Commonwealth
2 May 3151
壁越しに聞こえてくる音は、最初は小さな吐息だった。
だが、それは徐々に熱を帯び、重なり、くぐもった呻きに変わっていく。
認めたくなくても、それがツェレンの声であることにすぐに気がついた。
──まただ……
耳に届く声を塞ごうとして、枕に顔を埋める。
士官室の隔壁は薄くない。それでも、ツェレンの喘ぐ声はドルマ―の鼓膜を叩いた。
吐息のたびに、ツェレンの肌がどれほど敏感に反応しているかがわかってしまう。
──どうして、そんなふうに……あんな声、出せるの?
痛みを伴うほど胸が締めつけられる。
姉のように慕っていたツェレンは、今晩も誰かの腕で溶けている。
思い出すのは、あの人の柔らかな微笑、やわらかな手。悩んでいた時は黙って隣にいてくれた体温。
そして、苦しみと悲しみに沈んだ顔。
姉の失意と絶望のあまりの深さに、妹分のドルマ―は何もできなかった。
そして、今夜、ツェレンはよそ者のメック戦士と繋がっている。
喉の奥に塊のような寂しさが滞っている。それを呑み下すように、毛布をぎゅっと抱きしめる。
姉への感情と体の中心に残る疼きがドルマ―の中でごちゃ混ぜになって、消えてくれない。
漏れ聞こえるツェレンの声に呼応して、理性の底から湧いてくる。
──誰か……誰か……
無力感に負けそうで、心の奥で助けを求めてつぶやいた瞬間、ドルマ―の指はシーツを強く掴んでいた。
まるで、何かに縋るように。その手が、どこかへ伸びていく。
指先が、太腿に触れただけで、ひどく敏感に感じる。
──姉さん......
音は止まない。それどころか何度目かの快楽が、ツェレンの甘く崩した声が何度も何度も壁越しに響く。
音に打ちのめされて、体が勝手に熱くなる。
感情に羨望と、どうしようもない欲が入り混じる。
「……誰か……」
呟いた声は、夜に吸い込まれて消えた。
手を差し伸べない人に手は差し伸べられない。
姉に手を差し伸べられなかった、彼女に手を差し伸べてくれる人はここにはいなかった。
この部屋にいるのは自分ひとり。
かつてのツェレンのように、隣で抱きしめてくれる人はいない。
枕を抱きしめて、何とか涙を堪える。
悔しさと、情けなさと、誰にも言えない欲望が心を押し潰していく。
自分のこの惨めさを他人と重ねたところで、慰めにもならない。
「……だれか……」
それでも、そう、また小さく呟く。
自分を抱きしめてくれる、ぬくもりだけを求めて。
壁の向こうでは、なおも快楽の音が続いている。
心の痛みと熱と、満たされない渇きに身を焦がしながら。
音に晒されながら、ドルマーはただ、ひとりで体を丸めていた。
「ドルマー……」
不意に聞こえたその声に、身体がぴくりと反応する。
何も言わず、ただ目を見開いて、暗がりに浮かぶ真夜中の侵入者の姿を瞳に写す。
下着だけの姿のアリマ。
その表情に、ドルマ―の胸が微かに疼いた。
──この子も、私と同じように?
どこか浮いた表情のアリマがゆっくりとドルマ―の隣に腰を下ろす。
アリマは腕を伸ばすと、ドルマ―の頬に指を添え、そのままそっと唇を寄せた。
彼女がそれを拒まないことを確かめてから、今度は深く、熱を孕ませてもう一度。
ドルマーは微かに息を呑み、目を閉じた。
震えた指がアリマの服の裾に触れ、掴むようにしてしがみつく。
アリマがドルマの胸元の布を指で押し広げ、うっすらと汗ばんだ肌を露わにした。
ゆっくりとその胸に口づける。
湿った音が響き、ドルマ―の背が跳ねる。彼女の先端はすでにわずかに硬さを帯びていて、アリマの唇で吸われ、舌で転がされるたびに、身体が熱に浮かされていく。
声にならない喘ぎが、喉の奥から漏れた。アリマはその声を味わうように、右手を下へと滑らせる。
ドルマ―の下着の縁をなぞり、そこがすでにじっとりと濡れていることを確かめた。布越しに指を滑らせ、円を描くように撫でられるたびに、足が竦み、腰が引ける。
だが、逃げられない。
アリマの指がゆっくりと布をずらす。指が直接、濡れたそこへ触れた瞬間、ドルマーは喉を詰まらせるようにして息を呑んだ。
熱く、柔らかく、蕩けるような感触。アリマはその感触に舌先で唇を湿らせ、指をゆっくりと押し入れる。
最初は浅く、撫でるように。やがて、じっくりと深く。ドルマーの体が再び跳ねた。
唇が苦しげに歪み、息が漏れる。肩が強ばるたび、アリマは胸に吸い付き、指の動きを変えた。
濡れた音が次第に部屋に広がり、甘い匂いが空気を包んだ。
腰が勝手に動く。
はじめは戸惑いだったが、次第に身体が自然と快楽を求めて前へと動き始めた。
アリマは言葉を発さない。
慰めも、甘やかしの一言も口にしなかった。
ただ、目を細め、指先と唇でドルマーのすべてを貪る。
もう一方の手で、再びドルマ―の双丘を包み、先端を擦る。
吸いながら、指で弾きながら、奥のうねりを感じ取っていく。
ドルマーの呼吸は荒く、汗に濡れた身体がベッドの上で揺れた。
アリマの指がどこかに触れるたびに、痙攣のような波が走る。
そして、
「っ……あっ、んっ……ぁ……!」
声が、割れた。震える吐息が喉から漏れ、全身を硬直させてドルマーは、果てた。
アリマはその様子をじっと見つめながら、指をゆっくりと抜いてみせた。
濡れた指先を自分の口元に持ち上げ、何も言わずに舐め取る。
ドルマーは何かを言おうとしたが、喉からは言葉が出てこなかった。
ただ熱と快楽の余韻に沈みながら、瞳を潤ませ、アリマを見つめ返す。
アリマはようやく唇を開いた。
だが、吐き出されたのはたった一言、
「足らないわね。」
それだけだった。
そして、再びアリマがドルマ―の唇を奪う。舌が絡み、指が再び脚の間に触れる。
その熱に身を委ねながらも、ドルマ―の胸の奥に、ひとつの確信があった。
アリマは、ドルマ―のためにここにいるのではなかった。
そこに空虚を抱えながらも、ドルマ―はアリマの指に自分の全てを委ねた。
次の波は、もっと深く、もっと濃く、彼女たちを飲み込んでいく。