Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Union class Dropship Bridge
Blumenort System, Zenith
Lyran Commonwealth
3 May 3151
降下船の艦橋裏にあるブリーフィングルーム。
先代の艦長の趣味で掛けられた古びた油絵を除けば、飾り気はない。
そこに、飾り気のない三人が集まっていた。
「じゃ、定時報告はそんなとこだな。そしたら雑談タイムだ。艦長、ドルジ、お疲れさん」
整備班長のオーケが古びた端末を閉じる。古い換気ユニットの臭いが立ち込める仄暗い室内に紅茶の香りが混じり始める。
元はどこかの傭兵だったという艦長、オスキャルの肝煎りの一杯だ。
味も匂いもオーケにはわからなかったが、どうやら随分「お高い」らしい。
まず、カップの見た目が違う。
作業服に身を包んだ白髪のベテラン運び屋の艦長、年季の入った黒シミだらけの整備服の班長、歴戦の風体の威圧感のあるメック戦士の3人が円陣を組んで飲むようなものではなかった。
「雑談、な。ま、俺も多少は楽しみにしてるぞ」
艦長が苦笑する。
最初は紅茶の価値もわからない男と艦長にからかわれ続けた。だが、今回の旅には仲間がいる。
ドルジも、白い茶器を手に取りながら難しい顔をしていた。
「この船の空気、随分と変わったよな。」
オーケが口にしたのは、この会議室の話ではない。艦内の空気の話だった。
数日前までは艦内は難しい顔をした戦士が多かった。整備担当も言葉数が少なくコミュニケーションに問題を起こしていたが、今の整備区画では笑い声すら聞こえる。
「バヤルの影響もあるが...ツェレン副長、だろうな」
「間違いないね。女帝の復活はほんと大きいよ。けど……何があったんだ?」
艦長と整備班長の雑談にドルジが口を挟むことはほとんどない。今日もダンマリだ。
オスキャルの船の専属でオーケ達が整備を請け負って随分経つ。これでもUnion級の降下船の機関と搭載機の整備を全部請け負える集団の長だ。自慢じゃないが、観察力はある。
だが、何かきっかけがあったにしても、あの変わり方は急すぎた。
「女性の機微とやらはわからないですねぇ、なんのきっかけがあってそうなるんだか...」
オーケのボヤきを聞いていた艦長は肩をすくめると、ふといつもの悪戯心の混じった口ぶりで言う。
「そりゃ、お前……毎晩、夜が明けるまでいい声出してたらなァ、気も晴れるさ。」
「……は?」
眉が跳ね上がる。艦長を二度見した。
「これでも艦長だからな、艦内の事はなんでも知ってる。」
「……どういうことなの?」
ドルジにも目を向けるが、ドルジはいつも通りうんともすんとも反応しない。
気を取り直してカップを煽る。
歌を歌うとストレス解消になると聞いたことがある。でも、艦内で歌声が聴こえるなんて話は聞いたことがなかった。
ーー何もわからん。
ふと、右腕に結ばれた草の紐が目に入った。
世の中、わからないことばかりだったが、それは些細な問題のような気がした。
「ま、おかげで隊の調子が戻ってきたなら、それでいいさ。できれば嫌な空気の中での仕事はしたくない。」
もしかしたら、班員の誰かが詳しい話知っているかも知れない。ただ、オーケは流行りの曲は何も知らなかった。
「……問題があるとすれば、ドルマー隊長だな」
オーケはとりあえず言葉を続けた。
「うん。とにかく元気がない。隊長に昇格したプレッシャーではないと思うけど、とにかく目が死んでる。まあ、副長が復活したんで、隊全体はいい方に進んでるけどな。」
ドルジも艦長も小さく頷いた。
「ま、しばらくは見守るしかねえさ。俺たちはエステロスまで、お届けするのがお仕事でそれ以上は手出しできねぇしな。」
ふと、誰もが黙る時間が訪れた。
オスキャルもオーケも雇われだ。
艦長の言う通り、どんなにお互いが気になっても契約はこの旅程が終われば終わりだ。ドルジ達の行く末は契約の外だった。
「ま、若いもんが溺れていたら、そのときゃロープくらい投げてやるさ。」
艦長が右の手首を眺める。彼の手首にも草の紐が結ばれていた。