Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
DropPort Pad 5
Esteros System,Bern
Jade Falcon
20 June 3151
「やめろ、やめろ。双方、武器を下ろせ!」
パッドの入り口から現れた男が、銃声に負けぬ怒声を響かせた。
一瞬の静寂。
その隙を逃さず、アリマはコンテナの陰に身を滑り込ませた。まずは、この場をしのいだ。
チンピラたちのざわめきに耳を澄ませば、新手はエステロスのどこかの軍閥の兵士らしい。
声をあげて銃撃戦を止めたのが「アリンダム少佐」。年季の入った現場主義のオジサマだ。
彼の一喝で、兵隊ギャング達も一応は銃を下ろしつつある。
――ギャングの少佐が出て来たところで結局、彼も駐車料金目当てなら、この戦争は終わらないんだけど?
アリマは顔を上げた。
エステロスではもう十年以上、軍閥同士の内戦が続いている。どの勢力も星系全体を支配できるほどの規模ではなく、惑星各地で抗争が燻り続けていた。
内戦が長引く理由の一つは、星系内での兵器供給の貧弱さ。この星では、メックも気圏戦闘機も造れない。工業用メックに大砲を載せて撃ち合い歩兵の数で押すような、前時代の戦争をまだやっている。
パッドの入り口に並んだ一隊は、整然とした列をなしている。さっきまで銃を構えていたチンピラ達とは違う。よく見れば、装備は粗末だが統一されている。生身で工業用メックと戦うために訓練された兵隊だった。
そして、その中を進むアリンダム少佐の姿。羽織ったコートは泥にまみれ、色も褪せている。それでも背筋は伸び、顔には戦場を渡り歩いた者にだけ刻まれる疲労の色が見て取れた。
「道をあけろ」
短く命じた声に、チンピラたちは反射的に後ずさり、蜘蛛の子を散らすように道を開ける。
アリマも警戒を強める。
銃声は止んだが、状況が悪いのは変わらない。むしろ、今度はもっと面倒な相手が来た。
パッド中央へと進む少佐の前に、緑の戦闘服を着た男が現れ、無言のまま進路を塞ぐ。
――少佐はドルジを知っている。
少佐の表情が微かに強張ったのを、アリマは見逃さなかった。どこかの過去の戦場で、したことがあるのだろう。忌まわしい記憶がよみがえったときの顔だった。
少佐は足を止め、静かにその場に膝をついた。
階級章のついた肩が沈み、拳が床を叩く。
「申し訳ありませんでしたッ!!」
地面に頭を垂れた男の声に広場に一瞬、静寂が訪れる。ドルジは無言のまま、地面に頭を垂れた少佐を見下ろしていた。
「……うちのバカどもが、無礼を働きました。どうか、怒りを鎮めていただきたい。」
少佐の命乞いのような謝罪に場が少し騒つく。何人かのチンピラ達は安堵の表情を浮かべていた。
動き出しているのはメックだけじゃなかった。
上の階の作業用通路では、航空隊の男2人が大型の狙撃銃を構えていた。
「どうか、エステロスでの滞在を快適にお過ごしください。必要であれば、宿舎や資材の手配も我々がッ」
少佐の過剰なまでの謝罪に、アリマはようやく息ができるような気がした。
――どんだけ負けたのよ?
一度や二度の負けでここまで怯えることはない。
星の内戦が続く中でも、かつての支配者に対する恐怖は未だに彼らの中で生きているのだ。
厄介ごとに巻き込まれるのはこれからのような気もする。
しかし一先ず、この宇宙港は火の海にはならなかった。アリマはそれだけでよしとした。