Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
25 June 3151
「知らないわよ」
アリマは冷たく答えた。
彼女は首をひねった。迷子の兎は、遂に自分で考えることを諦めたらしい。
「隊長って、何をしたらいいんでしょうか?」
そんな哲学のような問いを投げかけられても、部下を持ったことのないアリマに答えがあるはずもなかった。
その答えにドルマーが項垂れる。
ドルマーを隊長とする飛行隊は、その配下にツェレン、ゾリグ、ナランのベテラン3人を抱えている。ただのエースパイロットでしかない彼女が自分より6年も8年も年長の濃いメンバーを束ねようとして、失敗し続けている。
アリマは自分のボスのことを考えてみた。
彼のやったことと言えば、潜入、破壊、誘拐、恫喝、民間空港で銃撃戦にギャングとの取引。
どれも彼女の参考にはならなそうだ。
「できないことをやろうとするのから失敗するのよ。」
アリマは彼女を慰める気は無かった。
一度空の上に上がれば、ドルマーはちゃんと指揮官だった。
そもそも、地上でドルマーが役立たずに見えるのは、他の三人が異常過ぎるだけだ。
ツェレンは部隊の副官にして飛行隊の副長。魅惑の肢体を持つドルジの愛人であり、かつてのエース。基地のアイコンで、部隊の事務と雑務をひとりでこなす才媛だ。
ゾリグは高度制限違反の常習者で、情報分析までこなす偵察機乗り。
ナランは降下船の元艦長で、対物ライフルを操る文武両道の気の利く巨漢。
気圏戦闘機が無くてもキャラクターの立つ隊員達が3人で既存の仕事を分担している。
わざわざ、隊長の彼女が働く必要があるようには見えなかった。
ーーそれをどう伝えたものやら......。
直球でそう伝えるのは憚られた。
自分の言葉を代弁してくれそうな人を探して、アリマはドルマーの手を引く。
心当たりは格納庫にいる彼しかいない。
ゾリグはいつものようにそこにいた。
「ちょっと女子の悩み相談に付き合いなさいよ。」
彼専用の椅子に座って、銃か何かの部品を弄っていた。
ドルマーが不安と緊張を隠せない様子で、アリマの小指に自分の小指を絡めてくる。
今日は砂嵐の気配はない。
緊急発進で彼らが出動する可能性が少ないからか、相棒のナランはここにいなかった。ゾリグ自身もフライトスーツ姿ではない。
予想通り、ゾリグはアリマ達の相手を嫌がらなかった。
短くいつものようにジュースをねだってから情報交換をして、本題に入る前にジャブを入れる。
「ナランとエレメント組んで長いんだっけ?ポイントリーダーって地上で何かするの?」
「ナランの予定確認以外なんもしないね。」
ゾリグはあっさりと答えた。
「あとは砂嵐の予報を確認するくらいだな。基地にいた頃より楽してるぜ。」
それでも機体の点検は欠かさない。いつでも出撃できるように格納庫に控えているのが彼だった。
緊急発進で他に遅れを取るはずが無い。
「小隊の隊長って何するの?」
ドルマーに顔を向けて、アリマは聞いた。
これはちょっとしたイジワルだ。
不意を打たれたドルマーの目が泳ぐ。
「事務、諸々調整、整備計画は姉御が全部やってるだろ?退屈な会議の話を聞くくらいじゃないのか?」
ゾリグが肩をすくめる。
「ユルのおっさんだって、大事な仕事は散歩だって言ってたぜ。」
アリマはドルマーの顔を覗き込んだ。
察しのいいゾリグのことだから、これを機にドルマーに言いたいことを言ってくれるだろう。と踏んではいた。
「エースはエースの仕事してればいいと思うぜ。俺もナランも出来ること以上のことは望まれてないしな。」
警察病院で銃撃戦と人攫いとかゴメンだろ?と笑う。
これを笑って返してあげられるのは同じ苦労を経験しているアリマだけだった。
いつの間にか、ゾリグはアリマではなくドルマーに向かって話をしていた。
自発的に若い隊長が気がつくか、意見を口にするチャンスを伺っていたのだろう。
少し間を置いて、ゾリグは続けた。
「ただ、姉御のことは話が別だ。隊長の仕事を気にしてるなら、ツェレンの仕事を手伝えよ。姉御は今、ドルジの旦那と一緒に俺たちの倍以上働いてる。」
ツェレンの名が出て、ドルマーの表情が翳る。アリマはドルマーの表情の理由を知っていた。
「俺たちの姉御は立場は変わっても姉御のままだ。変わってねぇよ。」
この男がどこまで知っているのかは彼の表情からはわからない。
「変わったとしたら、自分の方かもな」
ゾリグの言葉に、ドルマーの表情が変わった。
アリマはため息をついた。
ーーこの子が、私に相談に来る前にやりなさいよ。
ほんの少しだが、ドルマーの顔に明るさが戻っていた。
彼女の迷いはまだ消えていない。それでも、視線の先が定まっていた。
そんな、ドルマーが少し羨ましくて、アリマはゾリグから見えないように、彼女の小指に自分の小指を絡めた。