Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
26 June 3151
高い建物の屋上階には一度は登ってみたくなる。
晴れきらない思いを振り払って、あと、ほんの少しの勇気が欲しくてドルマ―は建物の最上階の階段を上った。
屋上に至る扉を開くと、先客がいた。
夜の時間なら誰もいないだろうと油断していた。彼女の声に気がついたナランと視線が合う。
ナランが立ち上がると、その影に隠れていた黒衣の女性が、夜の風の中に静かに浮かび上がった。
--アンネ。
ドルジの配下のメック戦士。奇妙な呪いを操るとか怪しい話も耳にしていたが、ゾリグとナランが不審な人間を贔屓にするはずがなかった。
ナランの静かな促しに従って、彼女の元に近寄る。
ドルマ―がアンネの近くに歩み寄るとナランはアンネに一礼をして、ドルマ―が入ってきた入り口から建物の中へと戻っていった。
静寂の中、ドルマ―はアンネに視線を戻す。
彼女は屋上で小さな火を焚いていた。
何かをくべているような慣れない匂いのする煙が鼻をついた。
「兎さんはユル部隊長がちゃんとお世話してるから、元気よ。」
指に挟んだ紙片を1枚1枚、煙に潜らせながらアンネは口を開いた。
唐突だったが、すぐにツォンシャンに置いてきた彼女のペットの話だとわかる。年下のシフに預けたはずなのに、結局、ユルが世話をしているのはなんとなく想像がついた。
兎の毛並みと匂いを思い出そうと息を大きく吸うと刺激の強い煙が鼻の奥を刺激した。
ドルマ―は涙が出るほど咳き込む。落ち着くのには少し時間がかかった。
誰かが背中をさすってくれていたような感触に不安が徐々に溶けていく。背中の温もりの正体が知りたくて、背後を振り返った。でも、ドルマ―の背後には誰の姿もなかった。
「ゾリグが......お世話になりました。」
息が整った後、ドルマ―はなんとかアンネに伝えたかった言葉を伝えた。
彼の報告が正しければ、アンネは彼の命の恩人だった。あまりに現実離れしていたので、その時は信じられなかったが、今ならドルマ―はそれを信じてもいい気がしていた。
アンネはそれに特に返事を返さない。
同じ動作を静かに繰り返している。
ここは鉱山基地の居住棟の屋上だったが、同時にここは誰かの夢の中でもある気がした。
アンネの左手に収まる紙片の束が少しずつ減っていく。
その束が尽きた時がこの夢の終わりだと、ドルマ―は気がついた。
「私っ、どうしたら、お姉様と仲直りできますかっ?」
強い煙の匂いに負けそうになりながら、ドルマ―は勇気を振り絞ってアンネに訊く。
不仲になるきっかけがあったわけではなかった。ただ、姉が気を落としている間にドルマ―が開けてしまっていた彼女との距離を少しでも元に戻したかった。
必要なものはわかっていた。ほんの少しの勇気と何かのきっかけだ。
アンネはドルマ―の方を見ることなく、星空を見上げた。
指先をつつっと走らせて、何かと何かを線で結んでいる。
ドルマ―は戸惑いながらも彼女の仕草を見守った。
「明後日」
アンネが口を開いた。
ドルマ―は彼女の声を聞き逃さないように、その場に跪いた。
「空を駆け、彼女を追いなさい。先を譲って。彼女が振り返るまでは、抜いてはいけません。」
いつの間にかドルマ―はアンネに頭を垂れて、言葉を受けていた。
言葉が終わると同時に辺りの空気の冷たさが増す。
感謝の言葉を口にして、ドルマ―は目を開くと、そこにはもう人のいた形跡はなかった。