Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
28 June 3151
宇宙港での一件の後、少佐はドルジたちを食事に招待した。
名目こそ「歓迎の席」だったが、アリンダムの本音は別にあった。彼は、この武装集団がいったい誰に矛先を向けるのかを見極めたかったのだ。
中でも、整列した「炎槍の櫃」を見て、彼は背筋を凍らせたに違いない。もし、並んだ箱のほとんどがArrow IVだと思ったのなら、この部隊が星のどこかの要塞を粉砕するつもりだと疑うのも当然だった。
だが、敵ではないと知った瞬間、彼は態度を改めて滞在の支援と引き換えに戦力の提供を「お願い」してきた。
要求ではなかった。口調も姿勢も、どこまでも丁寧だった。
かつて、征服者に強気に出て「焼かれた」記憶が、彼らを慎重にしていた。
加えて、彼らの抗争の相手がメックの小隊を雇ったという情報が、彼らの焦りに拍車をかけている。
「鉱山の警備だけで構わない」と少佐は言った。
その鉱山こそが、彼らの勢力の根幹だった。抗争相手が雇ったという傭兵団の目標は、その鉱山だろう。
ドルジが協力を決めたのは、抗争の相手がただのギャングではなく、地図の色を昔の色に塗り直そうとする旧貴族だったからだ。
少佐の「叛意ある連中がいるから、一緒にぶちのめしてほしい」というお願いの構図は、ドルジの癖をよく読んでいた。
結局、ドルジは「滞在中に限る」条件で軍閥への支援を承諾した。
同行したアリマも反対はしなかった。
記憶を断ち切るように、アリマは旧式のホバー偵察戦車の速度を上げる。
ドルジ達が鉱山基地に到着して、1週間もしないうちに相手の傭兵団は鉱山基地の周辺に現れた。
豆鉄砲に軽装甲。彼女に割り当てられた車両は速度性能だけは良好だった。
本当はもっと軽めのホバーバイクの方がアリマの性に合っている。でも、機甲戦力相手にそれは命知らずが過ぎた。
峡谷の道を進んでいたとき、丘の陰から重い金属の足音とともに黒い影が躍り出る。
軽快なシルエットの重量級メック、Grasshopperだ。
暗めの緑色の胴体が周りの木々に溶け込んで、時々アリマの視界から消える。
とっさにスロットル全開。ホバーが跳ねる。
お飾りの主砲で色気を出している場合ではなかった。
そのすぐ後、真正面の崖上からGrasshopperよりも遥かに重々しいシルエットが、冷たい紫の光沢を帯びてアリマを見下ろしていた。
Gunslingerのまるで監視者のような視線にアリマは寒気を覚えた。
――チェンジ、絶対お断りよ。
即座に操縦桿を切って、包囲を避ける位置へ機体を滑らせる。途端にロックオン警報がコクピット内を真紅に染める。
アリマはスロットルを叩いて、更に加速した。
呻き声を漏らしながら舵を切る。機体が水煙を巻き上げて旋回するが、その前方に少し灰色がかった白いPhoenix Hawkが舞い降りた。
傭兵団「ローリングストーンズ」の1番機。
――おかわりなんて頼んでない!
三機のメックに立体的に追い立てられ、アリマはもはや選択肢を失っていた。
焦りを通り越して、諦観すら覚えている。
進路を失い、仕方がなく谷底へと追いやられるように川の上へとホバーの舵をきった。
隠れる場所のない岩場。どこに逃げても、誰かの眼がアリマを捉えていた。
C3リンク、三機の目が一つになって、彼女を逃がすことがない。
わずかな間のあと、三機の視線がアリマを焼いた。
ピタッとパズルのピースが填まるかのように全ての照準が重なったのがわかった。
次の瞬間、左舷の装甲が灼けた。機体は滑るように水場の上を舞い、水飛沫の中で機体が浮いた。
「諦めろ」と警告音と振動が唱和する。
それでもアリマは操縦を止めず、回避行動を繰り返す。
全ての射線が彼女を捉えていた。
閃光が装甲を融解し、機体を斬り裂き、内部を貫いた。
車体は断ち割られ、炎が吹き上がり、破裂音とともにモニターが砕け散った。
コクピットが潰れて、アリマの体が宙を舞う。
気がついた時には、すでに全身を川面に叩きつけられていた。
衝撃で声すらあげられず、代わりに大きな水音と飛沫をあげる。
ホバーの残骸は惰性のまま水面を滑り、やがて静止した。
断片は、泡を立てながら静かに川底へと沈んでいった。