Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
28 June 3151
地平線の向こうに、何か巨大な影が動いていた。鉄塔かと思ったが、違う。ゆっくりと停止と前進を繰り返しながら、じわじわと迫ってくる。工業用クレーンなど比べものにならないほどの巨体だった。
アレフは手元のパネルを叩き、長距離モニターを起動する。Fleaの火力は貧弱だが、カメラはしっかりと軍用の規格だ。
ズームを最大にし、映像を固定した。
画面の中央に、不釣り合いなほど長いシルエットが鎮座している。異様に長い砲身。二両連結のキャリアが、それを運んでいる。あれだけ遠くにあって、このサイズなら信じられないほどの巨体だ。
「マジか、Long Tomだ! 見つけたのか、でかいぞこれは!」
無線の向こうで、バヤルが興奮気味に叫んでいる。
「オチル、ビーコンくっつけろ、ぶち込むぞ、第一射!空が割れるぞォ!」
無線機の向こうから爆音が続き、ArrowⅣが発射される。しかし、ミサイルがやってくるには時間がかかる。当たるかどうかは、オチルのビーコンにかかっていた。
ホバー戦車が浮きながら地表をなめるように接近してくる。同じ広場に、オチルの機体が頭を突っ込んできた。
『あ、あれ……? ずれる、もうちょい……違う? こうか?』
ホバー戦車が不安定にぐらついた。照準を定めるなら車体じゃなくて砲塔を動かした方が良さそうだけど...?
オチルがまごついていると、Long Tomが火を噴いた。
轟音が大気を裂き、Fleaが激しく揺れる。視界が歪み、空間そのものが震えた。
「撃った……!」
長大な閃光が、空を切り裂くように走った。
閃光の先の空には一条の飛行機雲が見える。砲弾は、その雲の果てを狙っている。
弾道の先が気になっていたアレフの後ろでオチルが小さな声で呟いた。
『……外れた?』
オチルの射出したビーコンは目標の巨体に当たらず、信号を発信していなかった。
無線越しに、違う場所で3機のメックに追われていたアリマの悲鳴が響き、続いてボルドの無機質な「アリマ機大破」の報告が流れた。
アリマ機がやられたということはトヤーのArrowⅣの誘導も失敗だ。作戦は一つもうまく進んでいなかった。
アレフは嫌な予感に突き動かされ、後ろを振り返った。
谷の向こう、鉱道の入り口に近い地点から、赤黒い煙柱が立ち上っていた。
炎と煤が混じるその光景は、現実とは思えない異界のようだった。
「……バヤル?」
煙が上がるその地点——バヤルのキャリアが陣取っていた場所だ。
無線機の向こうの賑やかだった声がいつの間にか静まっている。
Longtomの砲弾が、正確にそこを撃ち抜いたのだ。
——どうやって?
空には立ち昇る飛行機雲がまだ残っていた。ミサイルの発射煙だ。この大砲は、ArrowⅣの噴煙を頼りにキャリアーの居場所を予想したのだろう。
こちらは、一発も当てられていないというのに。
相手の機転を想像したアレフは舌を巻く。
ベテラン兵の喪失にアレフは凍りついた。
仲間の様子を伺おうと目を泳がせると、閃光が視界を横切った。
丘陵の上から、Grasshopperがこちらを見下ろしていた。アリマを仕留めた機体が、今度は、こちらを狙いに定めている。
更にもう一機、Phoenix Hawkが地形を盾にアレフ達の方向に向かっているとボルドからの警告。
もう、Longtomどころではない。
Fleaのロックオン警報は反応していない。Grasshopperの目標はオチルのホバー戦車だった。
オチルに警告を叫ぶ前に再び、地面が揺れた。
轟音とともに、あの巨砲が二度目の咆哮を上げる。
今度は、別の方向だった。大きく右へ。
「トヤー!ドルジ!Longtomがそっちを撃った!」
アレフは叫んだ。無線越しに駆動音がかすかに響く。
——どうか間に合ってくれ。
意識をオチルのホバー戦車に戻すが、目当ての戦車の姿はFleaの近くにはなかった。
モニターのマップを見ながら、コクピットの窓の先、崖の斜面を走査する。
——いた。
Grasshopperの照準に追われ、今や退路も遮断されている。
起伏の向こう側から閃光が走る。直撃。Phoenix Hawkが崖上の狩りに加わった。
まだ、遠い。それでもパルスの光弾がオチルの戦車を滅多撃ちにする。
戦車が悲鳴を上げ、バランスを失って横に傾いた。
次の瞬間、オチルの戦車が崖から空中へと滑り出た。浮いたまま、沈むように落ちていく。
アレフの視界から消えて、壊れる音が聞こえた。爆発だったのか、装甲が裂けた音だったのか……もう、判別できなかった。
「アレフ、Grasshopperの右側をすり抜けて、ドルジの方へ退け」
ボルドの声は落ち着いていた。Fleaのモニターに、撤退ルートが即座に描かれる。
長砲身の怪物は、未だに健在だった。第3射の準備が進んでいるのだろう。足元の蚊トンボなど、まるで眼中にすらないとでも言うように。
アレフは砲から目をそらして、Fleaの脚を進めた。
逃げるしかなかった。どうしようもなさを飲み込んで、アレフは操縦桿を握りしめた。