Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
28 June 3151
エステロスの月は3つ。
それぞれ違う色合いだけれども今日は皆、青白かった。
採掘を終えた鉱山帯は、夜になると静まり返り、まるで空に浮かぶ月の表面のように静かだった。
瓦礫、資材、風に吹かれて乾いた土、そして灯りのない監視塔の影。
トヤーはその静寂の中を、ふらふらと歩いていた。
基地に戻ったトヤーは入れ替わりで飛んでいく救助ヘリとすれ違った。
戦場に残されたアリマ、オチル、ボルドたちを回収しに行くらしい。
回収対象の中に彼の名はなかった。
それが何を意味するかは、トヤーにでも理解できた。
あまりに残酷な現実に泣くことも、叫ぶこともできなかった。
基地にいてはいけない気がして、トヤーは明るい基地の裏手からふらりと出て、そのまま足の向くまま、鉱山帯へと降りてきていた。
基地から遠ざかるように歩く。
気がつけば、掘削場を抜けて、資材置き場の裏手に辿り着いていた。
黒々とした無機質な重機や設備を、3つの月が空から照らしていた。
積まれた鋼材の影にトヤーは腰を下ろした。膝を立て、背を鋼材に預けて、首を仰ぐ。
涙は変わらず出なかった。ただ、喉の奥が焼けるように苦しかった。
言葉にできない思いは、胸の奥で沸騰しそうになっている。
胸を撫で、腹をさすり、下腹部の硬いジッパーにそっと手を添える。
指先が震えていた。
バヤルの感触を思い出そうとする。
思い出そうにも、彼の肌に触れたことなど一度もなかった。
ジッパーを少しだけ下ろす。
パイロットスーツの隙間から手を差し入れ、インナーをずらしていく。
湿った指先が腿の内側を這い、薄い布越しに自分の熱に触れる。
くちびるがわずかに開き、息が漏れる。
誰も見ていない。見られてもいい。そう考えていた。
だから、足音が聞こえても、指は止まらない。誰かの気配が近づいてくるのに気づきながらも、トヤーは目を開けなかった。
身体の奥に渦巻く痛みを掻き出す方が忙しい。
息が荒くなっていく。
濡れた下着を指で更に押し下げて、熱く滲んだ箇所を探る。擦るたびに、わずかに背中が跳ねた。
近寄ってきた気配が膝元に落ち、冷たい手が肩に触れた。
一人の少女が、月下でパイロットスーツを半ば脱ぎ、両手の指で自身を慰めている。そんな姿を目にした相手が何を思ったのかはわからない。
指が頬をなぞり、顎に触れ、胸元へと滑り落ちる感触をトヤーは何も言わず、拒みもせずに受け入れた。
パイロットスーツのジッパーが下ろされ、胸を支えるインナーが押しのけられた。知らない男の手が、トヤーの大きな乳房を掬うように撫で、先端を唇で吸われる。
トヤーは初めて背を仰け反らせた。
皮膚が冷えた空気に震え、汗が滲む。
力強い手に腰部をほどかれて、脚の間へ男が割り込む。
そして、男の体が重なった。
音もなく、深く、湿った熱の中へと沈んでくる。腰を打ちつけられるたび、内腿が震えた。
肉の擦れる音と、呼吸だけが夜気に混ざる。
トヤーは目を開けなかった。
自分の中にいる男を誰かとして知りたくなかった。
彼は何度もトヤーの中で果てた。
そのたびに、彼女はただ黙って受け入れた。
髪を引かれ、胸を貪られ、下腹部に熱を注がれるたび、身体がじんわりと痺れていく。
男が立ち去ると、再び静寂が訪れた。
資材の影に、夜風と湿気が戻る。
トヤーはしばらく動かなかった。
脚の間の温もりと太腿を伝って何かが垂れ落ちていくのを感じながら、
それを拭おうともしなかった。
肌が冷えたが、半端に剥かれたスーツが貼りついてくる。
胸元から冷たい汗が落ち、地面で小さな音を立てた。
目を閉じたまま、震える指でインナーを引き寄せて、ジッパーを上げる。
指の震えが止まらなかった。
何も変わらなかった。
誰かと身体を重ねても、熱を抱いても、心の奥の空洞は何も満たされなかった。
顔を伏せ、両膝を抱えてうずくまる。喉の奥がひくつき、くちびるがわななく。
「……バヤル……」
ようやく、声が漏れた。
月の下で、その名を呼んだとき、胸の奥から裂けるような痛みが走った。
声が続かない。
代わりに喉を焼いて、嗚咽が込み上げる。
返事はないとわかっていても、それでも、叫ぶように何度も名を呼んだ。
涙が頬を伝い、顎を濡らし、胸元に落ちていく。
トヤーは泣いた。
ついに、泣くことができた。
彼を喪ったと受け入れることができたから。悲しみを受け入れる隙間が、ようやく生まれたから。
月は冷たく、優しく、何も知らぬ顔で、ただ、彼女の肌に降り注いでいた。