Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Mining district
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
25 June 3151
ドルジの部隊はプリヤンカが今までに見て来たどんな部隊よりも格上だった。
胸に任務への疑問よりも先にこれからの立ち位置への不安が過ぎる。
夜の静けさの中で、プリヤンカはふと決意した。
本丸、ドルジの部屋に直接乗り込んで、彼の懐に潜り込む。
古来から情報は女の口を伝わる。
技術士官の彼女にとって諜報は専門外だった。
幸い、プリヤンカは士官学校では外見も評価されている。
とりわけ制服の胸元に目を留める者は多かった。
肌の色が違えば、恋人にも恵まれたのかもしれない。
ドルジがいるはずの士官室に至るまでに、何度も手帳を開いて、会話の導入を考える。
これしかないと、ドルジの部屋の扉を叩こうとした時、室中から音が漏れた。
既に先客がいた。
高い、艶やかで、熱を帯びた、女の声。
最初は幻聴だと思った。
そもそも、この基地の士官室の壁は音が漏れるほど薄くない。
しかし、それは数分経っても収まらなかった。
プリヤンカは構えた手を降ろす先を失ったまま、しばらくどうするべきか迷う。
思い悩んだプリヤンカは中の出来事の終わりを待つことを選んだ。
嬌声を耳にしても、男性経験のないプリヤンカには中の様子が想像つかない。
この情報をどう報告書にしようかと考えこんでいるうちに、いつの間にか外では日が昇ろうとしていた。
声の主はツェレンだった。
タンクトップ姿で部屋を出てきた彼女は昼の制服姿とは違った美しさを備えている。
ちょっと前まで続いていた情事を知るプリヤンカにとって、ツェレンの首元から覗く下着の肩紐と柔らかそうな胸元はあまりに刺激的だった。
ドルジのそれとは異なる圧を漂わせる彼女にプリヤンカはどこか羨望の眼差しを向ける。
彼女は静かに扉を閉じると髪をまとめ直して制服の裾を払い、プリヤンカに「お疲れさま」と笑顔で告げて歩き去った。
プリヤンカは彼女に返す言葉を思いつけず、項垂れるしかなかった。
何かに疲れているのかもしれない。気がつけば目の先の足元が揺れていた。
もう少し視線を降ろすと自身の胸が視界に入る。
──負けてる……。
レンズ越しの視界が曇りはじめていた。
翌夜も任務を終えた後、プリヤンカはドルジの部屋の前を訪れる。
扉を叩く前から、室内は昨日と同じ声で満ちていた。
プリヤンカは、耳と心を削られながら、夜の士官室の前に立ち尽くす。
甘い吐息、叩きつける音、解放感に満ちた悦びの声、圧倒的な迫力と破壊力。
ツェレンの声は激しい熱量に満ちていた。
壁を扉を突き抜ける音にプリヤンカは脳を焼かれ続ける。
痛みすら感じるのに、どうしてか彼女はそこを離れる気になれなかった。
夜が明けると、もう任務のことは何も彼女の記憶に残らなかった。