Battletech:Tales of Jade Falcon Remnants 作:Sykyu
Ep.08_01
Mining Base Briefing Room
Esteros System,Alkahera
Jade Falcon
17 July 3151
エステロス鉱山基地のブリーフィングルームには、次の出撃を控えた面々が顔を揃えていた。
壁に貼られた地形図を見ながら、メガネの少尉の話を聞いている。
プリヤンカ少尉は軍閥から派遣された連絡員だった。
ドルジたちがこの鉱山基地に到着してすぐに配置された。
しかし、最初は空回りが続いて、数日で彼女は寝不足で倒れた。
今回の作戦が実質、彼女の初仕事とも言える。
何人ものベテラン戦士に値踏みされる中、淡々と説明を続ける年若い彼女の胆力にアリマは舌を巻いた。
一帯の地形の説明を終えた後に、彼女は前回の戦闘でアリマ達が壊したホバー戦車の代替機の説明を始めた。
「起伏の多いこの土地では、車両よりも航空機の方が有用です。」
自身に満ちた声で彼女が告げる。
ディスプレイに2機の戦闘ヘリが映し出された。
アリマも存在を知っているような、珍しくない機種だ。
――そうね。でも、それを誰が操縦するのかしら?
アリマはそう心の中で反論する。
わざわざ口に出したりはしない。
「単独で運用するのではなく2機で同時に運用します。パイロットはコマンダーバヤル以外に、もう一人が必要です。」
プリヤンカは端末を操作しながら室内を見渡す。
「へ?バヤルはキャリアーちゃんに乗るよ。次こそ俺と一緒に極太ミサイルを敵に撃ち込んでやるさ。」
バヤルの一言に、ボルドが短く咳払いをした。
ツェレンが小さく笑っている。
――少尉さん?そういうのは事前に本人に話を通しておくのよ。
気圏戦闘機隊のメンバーが顔を見合わせる。彼女達には彼女達に割り当てられた仕事がある。軽々しく手を挙げるわけにもいかないだろう。
重たい沈黙の中、アリマが手を挙げた。
「……じゃあ、私が」
仕方がない。少尉さんの進行では話は進みそうになかった。
「ライセンスは持ってるわ。実践経験ないから戦果は期待しないでね。」
呆然としていたプリヤンカの顔が少し明るくなる。
――どうしてこの子を送って来たのか、あの少佐に聞いてみたいわね。
手を上げはしたものの、アリマも一人で飛ぶのはイヤだった。
前回の戦場は彼女の心に小さな傷を残している。
少し、芝居をうつ。
「ねぇ、バヤルぅ、ヘリ乗ろうよぉ。また宙返りして。」
アリマが肩をすくめてバヤルに向けて甘えた声を出した。
ボルドの顔が渋くなるのを目にして、アリマも笑う。
アリマが茶化した空気の中、トヤーがバヤルの前に出た。
人差し指を少し咥えて、彼を上目づかいで窺っている。
「……ねぇ、バヤル。その極太ミサイル、私と一緒に撃つんじゃ、ダメかな?」
その場にいた全員が言葉の真意を測りかねて、戸惑いの表情を見せる。
――ミサイルの話で、いいのよね?
場の支配者が頬を紅潮させた少女に変わった。
今の彼女の眼には、バヤル以外の人間は映っていないのかもしれない。
アリマとは違う、作り物ではないホンモノがそこにいた。
「……前はお互いに離れてたけど……今度は、一緒がいいんだ。私の狐ちゃん、バヤルがリードして、ちゃんと当ててくれたら、嬉しいな。」
トヤーが一瞬だけ、言葉を飲み込むような仕草を見せる。
彼女のお誘いを受けたバヤルは居心地悪そうに視線を逸らした。
前回の作戦で彼の通信が途絶えたとき、彼女は「バヤルが死んだ」と信じて泣いた。
夜を徹して基地の外を泣いて彷徨った彼女の話をバヤルが耳にしていないはずがない。
「……しゃーねぇな。」
腕を組み、考え込んだ後、バヤルは了承した。
「じゃあ、俺がヘリに乗るよ。ミサイル、任せたからな。」
返事を聞いたトヤーの顔がふわりと綻ぶ。
「ほら、少尉さん。話付いたわよ。」
アリマがわざと気だるげな口調でプリヤンカに言う。
茶化して彼女が場を動かしたつもりだった。
なのにどこか居心地が悪くて、なんとなく癪で、アリマは言葉に棘を混ぜる。
2人に小さく拍手を送っていたプリヤンカは、我に返って動きを止める。
アリマと目が合うと、彼女は小さくうなずいた。